第15話 展開
○展開
”ピロリロリ〜ン♪”
弥太郎の端末の画面が光る。
”着いたよ〜 待ってるね”ミク
弥太郎はメッセージを確認するとミクへと返信する。
”OK”弥太郎
弥太郎はミクと構内のロータリーで待ち合わせだった。
「よっし。急ぐか」
弥太郎は端末をカバンに仕舞うと急いで歩きだす。
「トライくん」
ミクは弥太郎の姿を見ると嬉しそうに手を振る。
「ごめん、待った?」
「ううん、大丈夫。トライ君は?大丈夫だった?何か用事〜?」
ミクは弥太郎の顔を覗き込む。
(ち、近いな・・・)
弥太郎はミクとの急な距離に”ドキドキ”する。
「い、行こうぜ・・・」
「うん」
弥太郎は平静を装って先に歩き出した。
(トライ君・・・?)
ミクは弥太郎を追いかけるようにして歩き始める。
「ミクはいま、バスで通学なんだろう?」
「うん。エリさんのお家からだとバスがちょうど良いの」
「朝は良いけどさ、夜の便は少ないんだろう?」
「うん・・・。だから講義が遅くまでなっちゃう日は、甘えてて・・・ごめんなさい」
ミクは止まって頭を下げる。
弥太郎は振り返って言う。
「俺さあ〜、やっぱりミクのこともっと送り迎えしたいんだけど?」
「だ、ダメだって・・・、トライ君・・・。そこまで甘えられないから・・・」
ミクは恥ずかしそうに言う。
「ミクはい〜っつもそうやって俺には一線を超えさせてくれないよなあ・・・?」
弥太郎は”ボソリッ”と呟く。
「ん?なあに?」
ミクは下を向く弥太郎の顔を覗き込もうとする。
「ああ、もう、ダメダメ。ミクはいっつもそうやって、俺のこと年下扱いするしさ〜」
弥太郎は”ドシドシ”と先を歩く。
「えっ?えっ?ま、待って・・・トライ君?」
「俺、ミクのこと待てないから」
「えっ?ま、待って・・・?」
「嫌だね。ミクから俺を追いかけて来てくれなきゃ、俺は嫌だ」
弥太郎はそう言うとミクに振り向かずに先へ行こうとする。
「ねえ、待って〜、トライ君?」
ミクは、弥太郎のカバンを掴む。
「おっと、あ、あっぶね〜」
弥太郎は”グイッ”と後ろに仰け反る。
「怒ってるの?」
ミクは近づいて言う。
「怒ってなんかないよ・・・」
(怒ってるんじゃなくって、妬いてんだよ・・・ネエさんにもヤマトさんにも・・・)
弥太郎は、ミクが一線を超えて触れさせる二人に嫉妬して居た。
「どうしたの?トライ君?元気無いよ?」
「そ、そんなことは・・・ない・・・」
「トライ君の言葉に甘えたいんだけど、ね・・・?」
「甘えたいんだけど、何だよ?」
「甘えてばかりになるから・・・」
ミクは困ったように言う。
「ミクは甘えることに怖がるよな?俺、そんなに頼りない感じ?」
「そ、そうじゃなくって・・・」
「俺だって、ミクと長く居たいじゃん・・・」
弥太郎はまた”ボソリッ”と言う。
「いま、エリさんと暮らしてて、お金のこともエリさんに助けてもらってて・・・」
「ネエさんの下でバイトしてること・・・そのことか?」
「うん、そう。シェア・ハウスって言ってもわたしには収入が無かったから結局はエリさんのお仕事を手伝わせて貰ってるんだし・・・」
「遠慮してるのか?」
「か、家族でもないのに・・・甘えられないかなって・・・」
ミクは悲しみを噛み締めたような表情で言う。
「俺だって、ミクの家族になりたいし・・・」
弥太郎は一人で呟く。
「えっ?」
ミクは弥太郎に振り返る。
「俺もミクの家族になりたい。ずっとそう思ってる、伝わってない?」
「えっ・・・?」
ミクは思わず身を逸らす。
「ト、トライ君・・・?」
「俺、ずっとミクと一緒に居たいんだ。ミクが家族じゃなきゃダメだって言うなら、俺、彼氏すっ飛ばして家族になりたい、良いだろう?」
弥太郎は強引にミクに迫る。
ミクは弥太郎から身を引くと距離を置いて弥太郎を見つめる。
(ト、トライ君・・・?どうしちゃったの・・・?)
ミクは体の震えを隠そうと自身の腕を掴む。
「ご、ごめんね・・・トライ君」
「それって、どう言う”ごめん”なの?」
「ど、どうって・・・」
「答えられない?」
「う、うん・・・ごめんね・・・」
「分かった。俺、今のままでも良いからさ、ネエさんとこ帰ろうぜ?」
「う、うん・・・ありがとう・・・ごめんなさい」
ミクは深々と頭を下げる。
(ミクのこと急ぎ過ぎたな・・・俺・・・。でも、いつか、きっと・・・。俺も家族と認めてもらえるように・・・)
弥太郎はカバンを空高く放り投げると”バシッ”と両手で受け止めた。
「ほら、ミク、行こうぜ」
弥太郎はこの場面で初めての笑顔を見せる。
(トライ君・・・)
ミクは弥太郎の笑顔を見ると緊張を解かす。
「うん」
ミクは嬉しそうに頷くと弥太郎の背中に飛びついた。
「うおっ、っとっと・・・。な、なにすんだよ〜?ミク?」
「トライ君が笑うと好きだなって」
「えっ?あっ?おいっ〜?」
弥太郎は驚いて立ち止まる。
ミクは”スルリッ”と弥太郎の背中から抜け出すと先を歩いて振り返る。
「トライ君が追いかけて?」
ミクは笑顔で弥太郎に語りかける。
(惚れた者が負けなんだよな〜、チッチックしょー)
弥太郎はミクの笑顔に絆される。
「おうっ。どこまでだって追いかけてやる」
「クスクスクス。トライ君、ありがとう〜」
ミクは弥太郎の肩に手を乗せて背伸びをすると、弥太郎の頬にキスをする。
「フフフ。お返しだよ?」
「えっ?えっ?えええ〜っ?」
弥太郎は顔を赤く染めて立ち尽くす。
「クスクスクス」
ミクは嬉しそうに笑うと踵を返して先へと歩く。
(俺、ミクを後ろから見守るよ。ミクが笑ってくれるなら。俺、そうしていつでもミクを待つよ。俺も先へと行きながら・・・)
弥太郎は喜びを噛み締めると一気に走り出した。
「ミクは俺が笑うと好きなんだろう?」
「うん♪」
ミクは追い抜く弥太郎に頷いて言う。
「それならさ、俺、自信あるぜ?」
「ウフフ、きっと、そうね?」
ミクは頷く。
弥太郎は先に車に到着して振り返ってミクに言う。
「俺もミクが笑うとめっちゃ好き〜」
弥太郎は満面の笑顔で言う。
「ウフフ、そこは両思いね?良かった〜」
ミクも負けない笑顔で弥太郎に言う。
「のんびり行こうぜ、俺たち」
「うん♪」
ミクはゆっくりと弥太郎に追いついた。
弥太郎はミクの両腕を掴むとミクの体を引き寄せる。
「のんびりだけど、手は早い・・・ぜ、俺?」
「男の子だから?」
「それもある・・・」
弥太郎は、ミクの唇にそっと唇を合わせる。
「んっ・・・」
ミクは弥太郎の唇を受け入れた。
(トライ君・・・)
ミクはそっと目を閉じる。
弥太郎はミクの表情を確かめながら両腕を背中に回す。
「んんっ・・・」
弥太郎はミクの唇を甘噛みしてゆっくりと唇から離れた。
「今日は、ここまでにしよう・・・俺たち?」
「うん・・・」
ミクは頬を染めて小さく頷く。
(トライ君、優しいんだね・・・ありがとう・・・)
ミクは笑顔を弥太郎に返すと言う。
「お腹すいちゃった。帰ろう?」
「ああ、うん、俺も。ネエさん、今夜は家に居るのかな?」
「今夜は泊まりって行ってたけど・・・?」
「えっ!?」
「ウフフ。トライ君、いま、何か期待したでしょう?」
「えっ?そ、そんなことは・・・た、多分、無い・・・」
弥太郎は一瞬でヤマトの顔を思い出す。
「ウフフ。一人の時はヤマトさんに連絡することになってるの」
「だろうと思ったあ〜・・・ハア〜」
弥太郎はガックリと肩を落とす。
「クスクスクス。ヤマトさんも泊まりに来るわけじゃ無いよ?」
「監視カメラが付いてるんだろう?あの家?」
「ヤマトさんがそうしたの」
「おっさんの趣味じゃねえのかよ?」
「ウフフ。違うよ〜」
「実際、ネエさんとか気にならないのかな?カメラが付いた家なんてさ?」
「エリさんは、まったく平気みたい」
「マ、マジで・・・?ネエさんらしいや・・・」
弥太郎は”クスリッ”と笑う。
「どうして、エリさんらしいの?」
「映像作家じゃん、ネエさんはさあ〜。だってさあ〜、自らもネタに出来るところとかさ。どうせ、自分で映像見てるんだろう?監視カメラの?」
「うん、そうみたいだよ〜」
ミクは楽しそうに笑う。
(ネエさん楽しんでそうだなあ〜。俺も見られてるのか・・・結局・・・)
弥太郎は苦笑する。
「今夜は何を食べる?俺が作ろうか?」
「また鉄板焼き?」
「俺、他の料理って知らねえし」
「ウフフ。いいよ、鉄板焼き〜♪」
「おっ、ミクもハマったなあ〜?」
「うん。初めて食べた時、楽しかったから。大好きになっちゃった♪」
ミクは”ウフフ”と笑う。
「じゃあ、決まりだな。冷蔵庫に何か有るのか?」
「うん。エリさんが買い揃えてくれたから、いっぱい有るよ」
「マジか〜、ありがて〜」
弥太郎は涙混じりに言う。
「クスクスクス。トライ君、嬉し泣き?泣いてるの?」
「まあな、嬉しいのと安堵と・・・」
弥太郎は運転席のドアを開ける。ミクも助手席に回って車に乗り込む。
”バタンッ”
弥太郎はシートに座り込むと運転席のドアを閉める。
「シートベルトして?」
「うん」
ミクがシートベルトを閉めると弥太郎はミクに覆い被さる。
「動けないだろう?」
「う、うん・・・」
ミクは弥太郎を見上げる。
「車の中なら監視されて居ないだろう?」
「う、う〜ん・・・ど、どうかなあ・・・?」
ミクは車窓の外に視線を合わせる。
”コンコンコンッ”
フロントガラスからなぜかノック音が鳴り響く。
「ゲエッ!?」
弥太郎が振り向くと車の前にはヤマトが仁王立ちして居る。
「な、何で・・・ここに・・・ヤマトさん・・・?」
弥太郎はミクの端末の点滅に視線を落とす。
(ま、またかよ〜、あのおっさん・・・)
ヤマトは弥太郎と目が合うと”外へ出て来い”とジェスチャーをする。
「うっ・・・お、俺・・・呼ばれてるみたい・・・」
弥太郎はミクに振り返ると苦笑いする。
「ヤマトさん・・・もう、保護者っていうか・・・”お兄ちゃん”みたいになってて・・・」
ミクは決まり悪そうに言う。
「お、お兄さん?」
「うん、お兄ちゃん」
「ま、まあ、そ、そうだしな・・・ハハハハハ」
弥太郎は顔を引き攣らせる。
「俺、ちょ〜っと顔を覗かせてくるわ・・・ハハハハ・・・はあ〜」
弥太郎はため息をつきながら車を降りる。
「小僧?何をして居る?」
「何って、今からミクを送るとこだろ〜?」
「それで、何をして居るんだ?」
「な、何って・・・何だろう?あんただってもう子供じゃ無いんだからさあ〜、分かれよなあ〜?」
弥太郎は”ブチブチ”と不満を言う。
「フンッ。お前、ミクに気があるのか?」
「あるのか〜?って、おいっ。どう見たってあるだろうがあ〜、気づいて居なかったわけ?いまの今まで〜?」
「フンッ。ガキだと思ってな。まさか悪ガキだったとはな?」
ヤマトは握り拳を胸の前で合わせる。
(コ、コエ〜ヨ〜)
弥太郎は自身の両肩を抱いて震える。
「お前?ミクが好きなのか?」
「大好きですよ〜、それが何か?」
「フ〜ム」
ヤマトは腕を組んで言う。
「ミクを奪うならまずは俺を認めさせるんだな」
「はあっ!?」
弥太郎は怖気付く。
「それが筋ってもんだろう?小僧?」
「え、え〜っと・・・ヤマトさん・・・?」
「なんだ?小僧?」
「な、なぜに、ミクの前にヤマトさんが・・・?」
「俺が先にミクを好きになったんだ、分かるか?」
「え、ええ〜っ?い、いまもそうなんっすか〜?」
「いや、いまは唯一の身内の気分だ」
「や、やっぱり・・・そうなんすねえ〜。アハハハハ・・・」
弥太郎は力無く笑う。
「何か一つでも俺に認めさせてみろ。何でも良いぞ。お前が得意なものでも?」
「何でも・・・かあ・・・?」
弥太郎は何かを思いつく。
「何かあるのか?」
「べ、別に〜?」
弥太郎はしらばっくれるように言う。
「フンッ。まあ、いい。それまでは、俺がミクを預かる」
「えっ、ええーっ?」
「何だ?文句があるのか?」
「あります、あります、ありますよ〜」
「何だ?言ってみろ?」
「自由恋愛、自由交際、認めてくださ〜い?」
「フンッ。小僧。学生の身分で」
「ヤマトさん、学生ってとこにやけに乗っかかりますよね?学生時代に何かあったんっすか?」
「別に、何も無い」
ヤマトは無表情で答える。
(な、何かありましたね・・・これは、これは・・・?)
弥太郎は密かに企む。
(トメばあさんか・・・もしくは、ミクか・・・ちょ〜いっと、聞き出してみるか・・・)
「ヤマトさんがミクを送るってことっすか?」
「それが嫌ならお前の車を尾行しよう」
「どっちも嫌っす」
「お前に選択権など無い」
「ミ、ミクには有るでしょう?」
「まあ、そうだな・・・」
ヤマトは渋々、弥太郎の言い分を認める。
弥太郎は車へ戻るとミクを誘い出した。
「ミクはどうする?ヤマトさんと行くか?俺と行く〜?」
「ヤ、ヤマトさん・・・」
ミクはヤマトを見つめる。
「ト、トライ君は・・・?い、良いかな・・・?一緒に乗っても・・・?」
「もちろん。ヤマトさんが急に出てくるから、ややこしい・・・」
「ごめんね?」
「いや、もう、結構、慣れて来た、この展開?」
弥太郎は笑い出す。
「クスクスクス」
「ウフフ」
「アハハハハ」
「フフフ」
二人は面白くなって笑い出す。
「悪く無いよな、こう言うの?」
「うん」
ミクは嬉しそうに頷いた。
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