第14話 トマト
○トマト
”コンコンッ”
「ちわ〜っす」
弥太郎は峯岸研究室のドアを開ける。
「よお〜、渡来じゃん?講義はもう終わったんだろう?」
「相田さん、どうも」
弥太郎は相田に軽く頭を下げた。
「講義後もゼミ室に来るなんて、何かの課題?宿題でも出たの?」
「ああ、いや〜。そう言うんじゃなくって・・・」
弥太郎は説明しにくそうに答える。
「あ〜、えっと・・・、次の中間テストが俺、この大学に来て初めてのテストだったんで、対策を聞いておきたいなあ〜っと・・・」
「なんだ、そんなことか?」
相田は余裕の表情で言う。
「あ、相田さん・・・?」
「渡来?」
「は、はい・・・?」
「頑張れ」
「えっ?そ、それだけ・・・?ア、アドバイス的なこととか無しっすか・・・?」
「気合いだ」
「はっ?それだけ・・・?」
相田は嬉しそうに”ニマニマ”とする。
「俺も最初は正直、戸惑った。けど、何とかなる」
「う・・・」
弥太郎は助けを求めるように言う。
「せ、せめて・・・傾向を・・・」
「峯岸教授は基本的な計算問題と後は文章を書かせるな」
「ぶ、文章・・・?」
「そうだ。学生が考えて居ることを知りたい、半分は教授の趣味だな」
「そ、そんな・・・。しゅ、趣味って・・・?」
「まあ、講義を受け持って居たって学生達と触れ合えることもそうは無いしな。それに、何を考えて居るのか伝えられないと、この先につながらないだろう?そう言うのもあると思うぞ、俺は」
「そ、そうっすね・・・?」
「何か役に立ったか?渡来?」
「う、う〜ん・・・。あ、ありがとうございます・・・」
弥太郎は相田に頭を下げる。
「お前、本当は、何しに来たんだ?ここに。待ち合わせか?」
「えっ?ああ、はい・・・」
「例のあの子か?」
「れ、例のって・・・。まあ、その子ですけど・・・はい」
「うまく行って居るのか?」
相田は楽しそうに言う。
「う、う〜ん・・・。まあまあっすね・・・」
「まあまあとか言うのか、コイツは〜?」
相田は弥太郎の首に腕をかけて言う。
「うわあ〜、ギ、ギブっす〜」
弥太郎は相田の肘を叩く。
「次はまた、テスト明けにでもゼミで飲み会に行こうぜ?」
「えっ?」
「この前の新歓みたいに盛り上がろうぜ?」
「は、はあ〜・・・」
弥太郎はゼミでの新歓を思い出す。
「結構、盛り上がっただろう?」
「えっ?ええ、まあ・・・」
「何だよ?渡来?ノリが悪いぞ?和希にまたイジられたのか?」
「そ、そんなことないっす・・・、た、ただ・・・」
「ただ、何だよ?」
「嫌いな食べ物を聞いておいて、普通に居酒屋だったじゃないっすか〜?そ、それも、ゼミの定番って、この店に決まってる〜って。俺だけ知らないだけで・・・」
「なんだ?渡来、それで拗ねてたのか?」
「拗ねては無いっすけど・・・」
(俺、遊ばれてたよなあ〜って・・・)
弥太郎は苦笑いする。
「ククク。トマトは出て来なかっただろう?」
「峯岸教授が食べてましたよ?冷やしトマト大好物だって」
「俺も好きだが?そう言いながら、お前もトマト食ってたろう〜?」
「ああ、俺、トマト嫌いでも食べるのは大丈夫なんっすよ?」
「お前、それ、飲み会の席でも言ってたよな?」
「トマトは兄貴が好きだったんっす」
「行方不明の兄さんか?」
「そうっす。何となく悔しくって嫌いって言っただけっす」
「俺たちが兄貴みたいなものだもんな?お前からしたらなあ?」
「年はそうっすね?」
「よしよし、渡来、遠慮するな。俺たちが兄さんになってやるからな」
「いや、結構です・・・」
弥太郎は”スルリ”と相田の腕をすり抜ける。
「俺、今日はこれで帰ります。お疲れさまっした」
「クク。何だ、もう帰るのか?」
「ここに居ても俺、ネタ扱いにされるだけっすからね〜?」
弥太郎は口を尖らせて言う。
「そんなことないぞ、渡来。ククク」
相田は笑いが止まらないように言う。
(ほお〜ら、めっちゃ笑ってるし・・・)
弥太郎はカバンを持ち直すと研究室のドアを開ける。
「それじゃあ、失礼しま〜す」
”バタンッ”
弥太郎は廊下に出ると振り返らずに研究室のドアを閉めた。
「ふう〜」
弥太郎は長い息を一息吐く。
(そろそろかなあ・・・?)
弥太郎は端末の明かりを見る。
(メッセージは特になし・・・と・・・)
弥太郎はメッセージの履歴を確認すると、ミクとの待ち合わせ場所へ向かって歩き始めた。
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