第13話 待ち合わせ
○待ち合わせ
弥太郎は大学に編入してから初めての中間テストがもうすぐ始まる頃だった。
「う〜ん・・・、俺どうやって勉強しようかなあ・・・」
弥太郎は講義室に一人残って呟く。
「あれ?渡来じゃん?一人か?」
「おう、ソウ〜、珍しいな?ミノルは?」
「アイツ今日はバイトだぜ?」
「ミノルもバイトしてるんだな?」
「アイツは家業みたいなもんだろ?」
「何だよそれ?」
「ヒメん家、子供集めて塾やってんだよ」
「そ、そうなのか〜?」
「まあ、それで一人一人見るって言うんでアイツも駆り出されてるって訳」
「ミノルもソウも子供受け良さそうじゃん?」
「俺はともかくミノルとヒメはそうかもな」
「ヒメって・・・ミノルの彼女のこと?」
「そう言うこと」
弥太郎は家族公認の二人のことを羨ましく思う。
(俺もミクと・・・)
弥太郎はそう思うと同時にヤマトの顔を思い出す。
(か、家族・・・公認・・・)
「ハハハハハ・・・」
「何だよ?渡来?気持ち悪いぞ、お前?」
「えっ?いやっ、ごめん、ごめん」
弥太郎はソウに謝る。
「んで?何してたんだよ?講義室に一人で?」
「ああ、俺・・・どうやって中間テスト乗り切ろうかなって・・・」
「そうか、渡来は初めてだったか?うちのテスト受けるの?」
「ああ、うん・・・、そうなる・・・」
「うちのテストは楽勝だぜ?」
「えっ?マジで?」
「過去問さえ手に入ればな〜」
「過去問かよ?」
「テストより実習の方が重視されるのもあって、テストは毎回似たようなのが出るんだって」
「なるほど・・・」
「過去問なら俺たち回してやるからさ、一緒に勉強しようぜ?」
「おわっ、マジ助かる!」
「そ・の・か・わ・り〜?」
「な、何だよ?ソウ・・・き、気持ち悪いじゃん・・・」
「俺にも紹介してくれよ渡来のネエさんたちの家?」
「ミクとネエさんがシェアしてる海の家か?」
「そうそう〜。庭から出たらプライベートビーチみたいなもんなんだろう?」
「ああ、マジで凄かった。絶景だな」
「俺も憧れる〜。美人が住まう海の家〜♪」
「ネエさんは仕事場も兼ねてるからな、ちょっと聞いてみるな」
「渡来のネエさんって何してるんだよ?」
「あれ?言ってなかったっけ?映像作家」
「え、映像作家?」
「そう。いろんな動画を撮ってんだ」
「ええ〜、そんなんで金になるのか?」
「ああ、いまは動画が流行りだからな。加工だけでも仕事になるみたいだぜ」
「おお〜、確かに。どこ行ってもPR用の動画があるもんな」
「細かいのも含めて手固くやってるみたいだぜ、ネエさんは」
「頼もしいじゃん?」
「まあな」
弥太郎は端末をいじってエリへとメッセージを送る。
”ピロピロピロ〜ン♪”
エリからの返信が届いた。
”OKよ〜”エリ
「おっし。いつでも良いみたいだぜ?ソウはいつが良いんだ?」
「テスト2週間前とかどうだよ?」
「ああ、良い頃かもな」
「じゃあ、来週な?週末がいいか?」
「俺もネエさんもいつでもいいぜ?」
「分かった。また近くなったら決めようぜ?」
「了解」
ソウは頷くと時計を見やって言う。
「あれ?もうこんな時間?」
「何かあるのか?ソウ?」
「俺も夜はバイトなんだ」
「ソウは?何の?」
「俺は、飲み屋だな」
「飲食店かよ?」
「おうっ。賄いつきだからな、つい、それで」
ソウは照れくさそうに笑う。
「美味そう〜、それだけでも美味そうじゃん?」
「だ〜ろ〜?俺、居酒屋の飯って好きなんだ」
「今度、食べに行っても良いか?」
「おう、いいぜ。ネエさんでもミクちゃんでも♪」
「ソウの目的はそっちかよ?」
「あれ〜?怒った?渡来くん?」
「怒ってねえよ、呆れただけだ」
「プププ。素直だね〜」
「揶揄うなよ、ソウ・・・」
「渡来って揶揄い甲斐があるよな?」
「う、うれしくないぞい・・・」
「ククク。そう言うところだって」
ソウはまた時計を見る。
「急いでんだろう?ソウ?」
「ああ、いや、まだ大丈夫。渡来は?まだ帰らないのか?」
「ああ、俺、ミクを待ってるんだ」
「へえ〜?渡来はミクちゃんとどうなの?何か進展あったのか?」
ソウは身を乗り出す。
「いや、結局、何も無い・・・」
「ブハッ、お前、何だよそれ?」
「意外と何も無かったんだ俺・・・」
「まあ、そうガッカリするなよ、渡来。今度ゆっくり話しようぜ?」
「ああ、うん、悪いな」
「良いって。じゃあ、またな?」
「おう、気いつけてな〜」
ソウは手を振って講義室を去った。
「さあ〜て〜、俺も行くか・・・」
弥太郎は広げっぱなしの荷物を片付ける。
「ミクとの待ち合わせは・・・」
弥太郎は時計を見る。
「まだ30分はあるな・・・」
弥太郎は立ち上がると講義室の電気を消して回る。
「一応、中間テストのこと・・・先輩達にも聞いておくかな・・・?」
弥太郎は峯岸研究室へと向かって歩き始めた。
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