第11話 夜のドライブ

○夜のドライブ


 「トライくんの鉄板焼きって・・・どういうことをするの?」

 ミクは初めてのことで戸惑いを見せる。


 「ホットプレートってさあ〜、何でも出来るじゃん?」

 「な、何でも・・・?」

 「例えば・・・焼肉だろ〜?お好み焼き、焼きそば、野菜炒め、チャーハン、餃子・・・。デザート系ならホットケーキ、パンケーキ、クレープも行けるかなあ〜?」

 「ふ〜ん・・・」

 ミクはなかなか想像が出来無さそうに居る。


 「ミクはお好み焼きとかは?食べたことある?」

 「う、う〜ん・・・」

 「えっ?な、無いのか!?」


 「庶民的なものは食べさせて居ない筈だ」

 「ヤ、ヤマトさん・・・」

 ミクはヤマトに抱き寄せられる。


 「うっわ!ヤマトさん!?な、なぜ、あなたがいまここに・・・?」

 「フンッ。小僧。たまたま通りがかっただけだ」

 「マ、マジかよ〜?」


 「あ、あの・・・もしかして・・・わたしの端末かも・・・?」

 ミクは端末を取り出して見せる。


 (またヤマトさん・・・ストーカーみたいなことしてんなあ・・・)

 弥太郎はせっかくの二人きりを邪魔されて肩を落とす。


 「こんなに買い物をして何をするんだ?小僧?」

 「鉄板焼きっすけど?」

 「何?鉄か?鉄ならうちでも扱っているぞ?」

 「いや、普通の鉄じゃ無いでしょう?ヤマトさんの鉄って・・・?」

 「違うのか?」

 「ホ、ホットプレートでお料理をするみたいです・・・」

 ミクは控えめに言う。


 「フム。面白そうだな、小僧。俺も行く」

 「ええ〜っ。ヤマトさんって暇なんっすか〜?」

 「暇など無い」

 「え〜、じゃあ、なんでえ〜?」

 「いまここにこうして居られるからだ、小僧」

 「いまがその時だってことっすか?」

 「そうだ。いまがその時だ」

 「ん〜、まあ、良いっすけど・・・」

 「お前の義姉さんはどうしたんだ?別か?」

 「エリさんは、いま、デザートを見ていらっしゃいます」

 「そうか。女は甘いものが好きだな」

 「ミクもそうなのか?甘いもの好き?」

 「あの・・・わたしは・・・」

 ミクはヤマトに遠慮をするように俯く。


 (なんだよ・・・?なんか変だよなあ・・・ミク・・・?)


 弥太郎はミクの反応に首を傾げる。


 「俺はエリさんに挨拶をして来る。お前達は先に行け」

 「はいはい」

 (ったく、人使いが荒いぜ・・・ヤマトさん。さすが、ワンマン・・・人の荒扱いに慣れてるよなあ・・・)


 「ミク?大丈夫か?行こうぜ?」

 弥太郎はミクの顔を覗き込む。


 「きゃっ。あ、あの・・・ごめんなさい・・・」

 ミクは慌てて謝る。


 「どうしたんだよ・・・?ミク?」

 「う、ううん・・・」

 ミクは頻りに首を振る。


 「なあ?ミク?」


 「な、何・・・?トライくん・・・?」

 「俺たちと居るときは、飲み込んだ言葉を吐き出せよ?」

 「えっ・・・?」

 「いまのミクを見てるとさ、俺、想うんだ・・・」

 「な、何を・・・?」

 「この子はどれだけの言葉を飲み込んで来たんだろう・・・って」

 弥太郎はカートを止めてミクを見つめる。


 「ト、トライくん・・・?」

 「ミクって好きなもの何?」

 「わ、わたしが・・・好き・・・なもの?」

 「そう。言ってみて?」


 ミクは下を向いて俯く。


 「ずっと、そうやって、相手に合わせて来たんじゃ無いかって、俺、想う・・・」

 「えっ?」

 ミクは顔を上げる。


 「相手を喜ばせたくて、嫌われたくなくて、自分のことは置き去りにして生きて来たんじゃ無いかって・・・?」

 「トライくん・・・?」

 「違うなら簡単に言える筈だろう?好きなもの、嫌いなもの、得意なもの、苦手なもの・・・。ミクはそれらを拒んでる。まるで自分にはそんなものは与えられていないかのように・・・。違うか?ミク?」

 ミクは無言で弥太郎を見つめる。


 「あ、あたし・・・」

 「うん?」

 「そう言う事は言ってはいけないと思ってて・・・ずっと、誰にも言えなくて・・・そう想うことも諦めかけてた・・・」

 ミクは苦しそうに言う。


 「でも、トメ食堂のおばあさんがいつも励ましてくれてて・・・」

 「えっ!?トメさん?」

 「う、うん」

 ミクは頷く。


 「な、なんで?トメさん・・・?」

 「トメさんは・・・」

 「俺の父親の乳母だ」

 ヤマトがエリと連れ立ってやって来る。


 「トメさんは、ヤマトさんのお父様の乳母もされて居たの・・・私たち家族のことも心配してくださって居て・・・色々なところで救ってもらって居たの・・・」

 

 (なるほど・・・それで、ミク達のことに詳しかったのか・・・)


 「小僧?買い物はもう良いのか?」

 「おわあ〜っ。い、一応、お、オーケーっす・・・」

 「そうか。では、ここは、俺が払おう」

 「え〜っ?ヤマトさんが〜?」

 「何か不満か?小僧」

 「い、いいえ・・・」

 弥太郎は”チラッ”とエリを見る。エリは弥太郎に首を振る。


 会計を済ませるとヤマトがエリとミクに言う。

 「俺の車で送ろう」

 「えっ?いいんですか〜?」

 エリは楽しそうに言う。


 「わ、わたしは・・・」

 ミクは弥太郎のそばに寄る。


 「なんだ?俺の車では不服なのか?」

 「い、いいえ・・・ちがいます・・・」

 「じゃあ、何だ?」

 ヤマトはミクに詰め寄る。


 ミクは肩を”ビクリッ”と震わせる。

 「い、いいえ・・・」


 弥太郎はミクがまた言葉を飲み込んだことを見逃さなかった。


 「ミク?こっち来なよ?」

 弥太郎はミクの手を引く。


 「弥太郎・・・?」

 エリは二人を見つめる。


 「俺がミクを送る。文句があるのかよ?おっさん?」

 弥太郎は珍しく挑発的な態度を取る。


 (珍しいわねえ・・・弥太郎・・・これは、きっと何かあるに違いないわねえ〜・・・、おネエちゃん一肌脱いじゃおうっかなあ〜・・・?)


 「ね〜え〜?ヤマトさ〜ん?」

 エリはヤマトの腕を掴む。


 「せっくだから、二人きりでドライブしません〜?」

 「ドライブ?」

 「ほら〜、不動産もいくつか見せてくださるってお話でしたし〜?」

 「ミクとのシェア・ハウスか?」

 「そうそう。ミクちゃんも私も急ぎたいですし〜?いまから?良いでしょう?」

 エリは”グイグイ”とヤマトを押し込む。


 (ね、ネエさん・・・?)

 弥太郎はエリの唐突な行動に呆気に取られる。


 「ゴ、ゴホンッ。女性をこんな夜更けに連れ回すのは紳士に反するかと・・・」

 ヤマトは顔を赤くして言う。


 「じゃあ、ちょっとだけ・・・ねえ?」

 エリは弥太郎とミクに先に行くようにジェスチャーをする。


 ”行きなさい”


 弥太郎は頷くとミクの手を引っ張る。


 「行こう、ミク?」

 「うん」


 ミクは頷いて、ヤマトに軽く頭を下げる。


 「さあさあ、ヤマトさん〜?」

 エリはヤマトの体を押さえつける。


 「ああ・・・いや・・・その・・・」

 ヤマトは弥太郎とミクを見送った。


 「あらあら〜、二人とも先に行ったわねえ〜♪」

 エリはミクを乗せた弥太郎の車が去るとヤマトの腕を放した。


 「ヤマトさん、ごめんなさい」

 エリはヤマトに頭を下げる。


 「い、いや・・・、問題無いです・・・」

 ヤマトは心なしか顔を赤く染めている。


 「本当に夜のドライブしちゃいます〜?」

 エリはヤマトに笑顔で言う。


 「ど、どこへ・・・?」

 「ヤマトさんがお好きなところへ〜?どこへでも連れて行ってく・だ・さ・い?」

 エリは余裕の笑みで言う。


 「それなら乗って」

 ヤマトはエリをエスコートする。


 (へえ〜・・・ヤマトさん・・・男なのねえ〜・・・)

 エリは頼もしいヤマトに惚れ惚れする。


 「確かにこれはモテるわあ〜」

 「はっ?あの?何か?」

 「いいえ〜、こちらの話です〜、オーホホホホホッ」

 エリは高らかに笑う。


 「では、夜のドライブへ」

 ヤマトはエンジンをかけて言う。


 「let’s go♪」


 エリが片手を突き上げそう言うとヤマトが運転する車は静かに夜の中を走り出した。

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