第6話 シェア

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 月曜日の朝。

 弥太郎は今日もまずは駐輪場にミクの自転車を見に行く。


 「やっぱり動いた形跡は無いんだなあ・・・」


 弥太郎は一人でトボトボと構内を研究室棟を目指して歩いて行く。


 「おはよう!」

 弥太郎の肩を”ポンッ”と叩く手が現れる。


 「ミ、ミクっ?!」

 弥太郎は笑顔で佇むミクの姿に驚く。


 「あっ?れっ?じ、自転車は・・・?いいの・・・?」

 「うん。今日はヤマトさんに送ってもらったから」

 「へ、へえ〜・・・」

 弥太郎はミクの肩越しに駐車場の方へと目をやる。


 (あんにゃろ〜。こっちに気付いてやがるな・・・)


 弥太郎は視線を無視してミクに向き合う。


 「あの後は、大丈夫だったのか?」

 「あっ・・・。あの時は、ごめんなさい・・・」

 ミクは”ペコリッ”と頭を下げる。


 「いや、別に俺は大丈夫だったけどさあ・・・」

 「私も大丈夫だったよ?」

 「ええっ?本当に本当?マジなの?」

 「うん。でも、どうして?そんなに不安に見えてた?私・・・?」

 「そうじゃないけど・・・。ヤマトさんって強引かなって・・・」

 「ヤマトさん?ああ・・・確かに、そう言う風に誤解されやすいのかも・・・」

 ミクは何事も無さそうに言う。


 「ミクは、さあ?」

 「ん〜?なあに〜?」

 「ヤマトさんのこと、そうやって見てたんだな?」

 「そうやって、って?」

 「アイツは誤解されやすいんだって・・・。本当は違うってことだろう?」

 「ヤマトさんは、自己責任感と正義感が強い人よ。それで、ああ言う言い方になってるの・・・」

 「ミクはさあ・・・。やっぱり、俺らと違って大人だよな?」

 「そ、そう・・・?トライくんだけだよ〜?わたしのこと、大人なんて言ってくれたの」

 「俺が年下だからかな?」

 「トライくんが大人なんじゃない?」

 「えっ?お、俺っ?」

 「うん!」

 ミクは頷く。


 「なあ?ミク・・・?」

 「なあに?トライくん?」

 「ミクは、あの時、帰りづらいって言ってただろう?」

 「えっ?そ、そんなことを言ってた・・・?わ、わたし・・・?」

 「うん。俺にはそう聞こえたんだ」

 ミクは黙ってトライを見つめる。


 「それでさあ・・・?ミク?」

 「うん・・・?」

 「俺のアパートでシェア・ハウスしないか?」

 「シェア・ハウス〜?」

 「そう、狭いけど二人でシェアしないか?俺、何なら部屋も押し入れで良いしさ」

 弥太郎は笑う。


 「フフフ。トライくん。それって、ドラえもんとのび太さんみたいじゃない?」

 「えっ?ああ、そうかっ?パクリだな、俺?」

 弥太郎はバツが悪そうにはにかむ。


 「フフフ。楽しそう〜♪」

 「だ、だろう〜?」

 弥太郎はガッツ・ポーズを見せる。


 「考えておくね?トライくん?」

 「おう。俺も邪な気持ちは無いからさ」

 「変なこと考えてたの?」

 「だ、だ、だ、から・・・考えて・・・いないって・・・さ・・・ゴックン!」

 弥太郎は顔を赤くしてシドロモドロに答える。


 (あ、あっぶねえ〜。マジ、恥ずいな・・・俺・・・)


 弥太郎は照れ隠しに後ろを向く。


 「ねえ?トライくん?」

 「な、何だよ・・・?」

 「お部屋は片付けたの?」

 「へっ?」

 「だって、お部屋片付けて居なかったんでしょう?」

 「な、なんで・・・。そ、それを・・・?」

 弥太郎はミクに向き直す。


 「ウフフ・・・。内緒よ」

 ミクは嬉しそうに笑う。


 (何だろう・・・?ミクの奴・・・?何か変かなあ・・・?)

 弥太郎は首を傾げる。


 「ねえ?トライくん?」

 「何だよ・・・?」

 弥太郎は少しだけ警戒心を見せる。


 「遊びに行っても良い?」

 「えっ?な、何だよ?急に?」

 「善は急げって言うじゃない?」

 「善は急げ・・・?ああ、うん、まあ・・・。なあ・・・」


 (ミクにとって善なら良かった・・・)

 弥太郎は”ホッ”と胸を撫で下ろす。


 「じゃあ、講義が終わったら図書館で待ってるね?」

 「ああ、うん」

 「遅くなるようなら言ってね?」

 「ああ、うん」 

 「じゃあ、連絡先も交換しよう?」

 「ああ、うん。そ、そうだな・・・」


 (やった〜!ミクの連絡先ゲットだぜい!)

 弥太郎は密かにガッツポーズを決める。


 「は〜い、OK〜。ウフフ。よろしくね?トライくん」

 「おう。俺こそよろしく」

 「じゃあ、また、後でね?」

 「ああ、うん」

 弥太郎はミクに手を振った。


 (何だか良い感じじゃん・・・、俺・・・)

 「ニヒヒヒヒ・・・」


 弥太郎はニヤけた顔のまま、その足で研究室へと顔を出した。

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