第2話 歓迎?
○歓迎?
「渡来弥太郎です。よろしくお願いします」
弥太郎は短大を卒業してから四年制の大学へと編入してこの大学へと来て居た。今日は配属先のゼミでミーティングの日だった。
「弥太郎くん、よろしくね」
研究室には教授を始め、4人の先輩たちが居た。助手の広田さん、博士課程の相田さん、院生の知盛さん、現在4年生の和希さん、みな男性ばかりだった。
ところで、教授の峯岸美根子だけは唯一の女性だった。現在56歳。独身である。
峯岸研究室は機械工学課程の1コースだった。峯岸の専門は流体力学。主に航空機を扱って居た。
弥太郎は飛行機に憧れて大学への編入を決めた。
「小さなゼミだけどよろしくね。楽しくやっていきましょうね」
「よろしくお願いします」
弥太郎は深々と頭を下げた。
「まあ、そう固くならないでさ」
助手の広田が言う。
「俺たちみんなオタクみたいなもんだし、気楽にやろうぜ」
相田が言う。
「相田さん、オタクって・・・。先日は、学生でありながら特許申請出したばかりでしょう?」
知盛が言う。
「先輩たち凄いっすよねえ〜。さすがはオタクっす」
「おい、和希」
「え〜、俺なんか変なこと言ってっるすか〜?」
「いや、構わないよ」
「相田さん、和希に甘いっすよ」
「妬いてるのか?知盛?」
「いや、違いますって」
知盛は慌てて言う。
「ちょっと、くすぐるわよね〜」
峯岸は”クスクス”と笑う。
(おいおい・・・。峯岸教授・・・、実は、BL萌えギャル系?腐女子だったのか・・・?)
弥太郎は美根子を疑惑の目で見つめる。
「弥太郎くんのデスクは、ここね。自由に使って」
「は、はい・・・」
「あれれ?弥太郎くん?教授に興味あるの?」
広田が言う。
「あっ、えっ、いいえ・・・」
弥太郎は赤面して言う。
「ハハハ。教授はこれで、手強いからね。気をつけて」
広田は何か過去がありそうなことを言う。
「は〜い。みんな〜。楽しく馴染めたところで、顔見せは終わりね〜。さあ、さあ、散って、散って〜。みんな今日も楽しくね〜。じゃあ、私は先に授業に行くから。バイバ〜イ」
美根子は手を振って出て行く。
「新歓やるっすかあ〜?」
「和希、セッティングしろよ?」
「おい、新入りくん?」
「は、はい・・・?」
「君、嫌いな食べ物は?」
「お、俺っすか・・・?え、えっとー・・・。トマトっすかねえ・・・」
「おい、新入り〜。トマトって斬新だな、おい」
「そ、そうすっすか?」
「それじゃあ、ほとんどの洋食が食えないじゃん?」
「ああ・・・まあ・・・、そうなりますかねえ・・・」
「お前、モテないだろう?」
「へっ・・・?」
「トマトがダメじゃあ、流行りの店なんて行けないだろうが?」
「は、はあ・・・」
「それじゃあ、これまでにどこにデートに行ったのか、言ってみろよ?」
「えっ!いきなりっすか・・・?」
「おう、言え言え〜♪」
「えっ、いやっ、マジやばいっす!」
弥太郎は始業チャイムの音を聞いて、研究室から逃げ出した。
「ククク・・・」
「カラカイすぎだぞ、和希」
「でも、面白かったでしょう?広田さん?」
「ああ言う可愛い感じの奴は弄り甲斐があるな」
「さすがは、相田さん」
「俺、興味ナーシ」
知盛が言う。
「じゃあ、セッティングよろしくな?和希?」
「へ〜い。広田さん、了解っす」
「ピザで良いんじゃねえ?」
「知盛さん、凶悪っすねえ〜」
「そうかあ〜?」
広田たちはそれぞれに実験棟、実習等へと散った。
*
「ふう〜。あっぶねえ〜」
弥太郎は研究室から逃げ出して、無事に講義室へと辿り着いた。
「先輩たち、イキナリなんだもんあ・・・」
弥太郎は呟く。
「君?編入生?」
後ろから学生が声をかけて来る。
「ああ、はい・・・」
「俺、ここの3年生。よろしくな。俺のことは、タケシって呼んで」
「タケシ?」
「そう。竹田タケシ。タケタケだろ?」
「お、おおう・・・。覚えやすいな?」
「だろう?」
「うん。クスクスクス」
「ククク。お前、いい奴だな?」
「タケシも、だろう?」
弥太郎とタケシは講義室へと入った。
講義が終わるとタケシはバイトだと言って足早に去った。弥太郎は、研究室に戻ろうかと思ったが、図書館で時間を潰すことにした。
「午後の講義は・・・」
弥太郎がロビーを歩いて居ると、窓の外にミクの姿を見つけた。
「あれ・・・?ミクじゃん・・・?どこに行くんだろう・・・?」
弥太郎は図書館のロビーを飛び出て、ミクの後を追いかける。
ミクは構内を突っ切って、広場へと出た。
「こんなところに広場があったんだ・・・」
弥太郎は初めて目にする大学の広場をグルッと見渡した。
「結構、広いなあ・・・」
広場では学生たちが思い思いにくつろいで居る。
「俺もこうして地面に寝転がって、彼女とイチャイチャしたりして・・・」
弥太郎は有りもしない妄想にニヤニヤとする。
(声をかけてみようかなあ・・・)
弥太郎は視線の先のミクの様子を伺う。
「あ、あれ・・・?」
ミクは知り合いだろうか?馴れ馴れしい男がミクに近寄って来る様子が見えた。
「歓迎して居るようには見えないけれど・・・」
男はミクに何かを言い寄るようだった。
「離して!」
ミクの叫ぶ声が聞こえる。
「おい!待てっ!ミク!」
男が呼ぶ声が響き渡る。
(おいおい・・・。なんだ・・・?喧嘩か・・・?)
男は嫌がるミクの手を強引に引っ張って行こうとする。
「おい、やめろよ!嫌がってるじゃ無いか?彼女!」
弥太郎は思わず二人の間に割って入って居た。
「お前?何者だ?」
「何者って、ここの学生だけど?」
「ミクに何の用だ?」
「用?用なんて無いさ。ただ、嫌がる叫び声が聞こえたからさ。普通は放って置けないだろう?お前、それでも男かよ?」
「はあっ?ガキが偉そうに!」
男は言う。
「いいから、その手を離せって。嫌がってるだろう?彼女?」
「いいんだよ、コイツは俺様の所有なんだからな」
「やめてよ!まだ、そうだと決まっていない・・・」
「何を言ってるんだ?今更。おい!ミクっ!」
「離せよ!」
弥太郎は男の腕を掴み上げる。
「くっそー。覚えてろよ!」
男は、ミクから手を離すと弥太郎の襟口を掴んだ。
「俺は、コイツの婚約者だ。よく覚えておけ、小僧」
「婚約者〜?」
「そうだ、両家公認の仲だ。お前たちガキ共が俺たちの邪魔なんて出来ないんだ。よく覚えておけ」
「婚約者なら、何でもっと彼女を大事にしないんだよ?彼女、嫌がってたじゃないか?」
「コイツの”イヤ”は、”好い”なんだよ。このスケベ女が」
「やめて・・・」
「何か言ったか?」
「やめてって・・・」
ミクは泣きそうな顔で下を向く。
「お前は学生だから知らないかもしれないけどな、コイツは四年制の大学を卒業して就職もしている社会人だ。お情けで1年間だけ社会人枠での編入を認めてやって居るが、本来はコイツは俺の専属秘書なんだ。分かるか?」
「ああ、分かるね。アンタは相手の気持ちも分からない下衆野郎だってことがさ」
「何だと〜」
男はグイグイっと弥太郎の胸ぐらを掴んだ。
「ううっ・・・」
弥太郎は苦しがる。
「やめて、やめてってば・・・。ヤマトさん・・・」
「何だ、ミク?ようやく、素直になろうってか?」
「は、はい・・・」
「最初からそうしていれば良かったんだ。手を焼かせるなよ。バカ女。このガキにも謝れ!」
「ごめんなさい・・・。トライくん・・・」
「ミク・・・」
「ほら、ガキは消えな。ここからは、大人の時間だ」
「大人?何だよ大人って・・・?」
「それだからガキって言うんだよ、バーカ」
「何だと〜!」
「やめて!お願いだから・・・。ねっ?」
ミクは涙を溢しそうになって言う。
「分かったよ・・・。ミク・・・」
「じゃあね・・・。トライくん・・・」
「うん・・・。また・・・」
「もうミクには近づくなよ?ガキが。ミクはとっくに俺のものなんだ。他の男どもにも言っておけ。学生どもが」
(くっそ〜・・・)
弥太郎はミクの泣きそうな顔だけが忘れられなかった。
(ミクのこともっと知りたい・・・。ぜって〜、助けてやる!)
弥太郎は”ヤマト”と呼ばれた男の詳細を探ることを決意する。
(見てろよ〜。学生、学生って侮りやがって・・・。学生、舐めんな・・・)
弥太郎は生来の正義感で燃えて居た。
(女を泣かせる男なんて、許せねえ〜。諦めないからな、ミク・・・)
弥太郎はブツブツと呟きながら午後の講義へと戻って行った。
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