第2話:私の近くに、こんなに素敵な人がいたのに・・・。

さあ、お姫様を連れて最後の晩餐へ行くか。

それから僕は優奈を、とっておきの店に連れて行った。


商店街を抜けて少し歩いたら、すぐ目的の店が見える。

店の名前は「福ちゃん」広島ふうお好み焼きのお店。

僕はお店のマスターとは懇意にさせてもらってる。


マスターは、ちょっと強面こわもてだけど、暖かくて優しい女将さんがいて、

素敵なお店なんだ。


僕はイラストを描くのが得意だから知り合いに頼まれてマスターの

似顔絵を描いてあげたことがきっかけでマスターと親しくなった。

マスターは自分の似顔絵をプリントしたTシャツを自慢げに着ている。


「お好み焼き?」


「そうだよ・・・美味いから」


店の中に入ると、「いらっしゃい」っ言われる前に、早速マスターから

先制攻撃にあった。


「うちはカップルはお断り」

「お好み焼き焼いて、ただでさえ熱いのに・・・ますます熱くなるだろ」


それを聞いて優奈は笑った。

ちょっとリラックスしたみたいだった。

優奈は店の雰囲気と、美味いお好み焼きとカキフライと山芋トロ鉄板を食べて

満足そうだった。


「あ〜美味しかった」


「そう、よかった・・・また来れるといいね・・・あ、ごめん」


「うん・・・そうだね・・・」


福ちゃんから出た僕たちは、ガーデンテラスで休憩した。

外は、すっかり日が暮れて星がちらほら輝きはじめていた。


とりとめてサプライズ的なこともない何気ないデートだった。


「今日はありがとう・・・僕のわがままに付き合ってくれて」


「うう〜ん・・・私、楽しかったよ」

「こんなに充実してたの久しぶり・・・」


「そうよかった・・・喜んでくれて・・・」

「君が付き合ってくれて僕も楽しかったよ、ほんとありがとう」


「・・・・・・・・」


「・・・あまり遅くなると君のご両親が心配するからそろそろ帰ろうか?」


「私、今まで何を見てたんだろ?」

「どこを見てたんだろ?」


「え?・・・」


「私のほんの近くに、こんなに素敵な人がいたのに・・・」

「気づかずにいたなんて・・・」


そう言うと優奈は泣き出した。


「え?・・・どうしたの?・・・優奈?」

「僕、なんかいけないことしたり言ったりしたかな?」


「ごめんね・・・吉岡くんのこと今まで気づかずにいて・・・」

「私のこと想っててくれてたんでしょ?・・・」

「だから誘ってくれたんだよね」

「私の、うぬぼれじゃなくて、そう思っていいんだよね」


「優奈・・・」

「まあ、そうだけど・・・君のことずっと好きだったから」

「ただ僕は僕の好きな人に少しだけ一緒にいてほしかっただけだよ」

「同じ時間を君と共有したかったんだ・・・」


「それって告白?」


「告白?・・・・」


「好きって言ったよ、今」


「あっ・・・」

「あはは、口が滑った・・・気にしなくていいから・・・」


「じゃ〜私の方からお願いしていいかな?」


「な、なに?お願いって?」


「吉岡くん・・・よかったら私と付き合って欲しいんだけど・・・」

「いいかな?」


「まじで?・・・ちょっと待って、本気で言ってる?」

「一時の感情で言ってない?」


「本気・・・一時の感情なんかじゃなくて・・・本気だよ」

「吉岡くんは私のこと好きなんだよね」


「好きだけど・・・全然、期待してなかったからただ思わぬ展開って言うか」


「今日、他の男子に告ってフラれた女がこんなこと言うの図々しいかもしれ

ないけど・・・お願いします、付き合ってください」


そう言って優奈は僕に頭を下げた。


たしかに優奈を誘った時、彼女をなんとか元気づけてあげたかったから

僕には下心なんかなかった。

ただ、素直に彼女といたかっただけ・・・彼女に元気を分けてあげたかっただけ。


だから僕は半日だけ優奈といられたら、それでよかったんだ。

それだけだよ。

でも嬉しい・・・今、僕は最高に嬉しいんだ。


「今度は私からのお願いだよ・・・いい?ずっと一緒にいて」


僕ははっきり優奈を見てうなずいた。

僕と優奈はテラスからの帰り道、どちらからともなく手をつないでいた。


おしまい。







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半日だけの王子様。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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