第3話 ラピッド
「今日から二階層に行ってみようかな」
土曜日、一階層のスライム相手では余裕があるから二階層に行ってみることにした。武器や防具はなにも変わってないが、まあしょうがない。スライム相手じゃ稼げないし。
「ふんふんふふーん♪」
鼻歌をする余裕があるほどに一階層は余裕だ。これがランク2のダンジョンになると罠があって注意深く探索しないといけないが、ここはランク1のダンジョンだから罠が無くて気が楽だ。
「この階段を降りると二階層ね」
そうしてスライムを倒しつつ進むと、二階層へ降りる階段前に到着した。先週のダンジョン探索で、階段を見つけていたからスムーズに来ることができた。
「魔力は1割も減ってないから休まなくても問題なさそうね」
そう判断して階段を降りる。二階層も一階層と変わらない風景だ。
「まあ環境が変わると面倒だからいいけど、人によっては長時間探索できないかもしれないわね」
私なら大丈夫だけどと、内心で思う。風景が変わらないと閉鎖感があって、ストレスが溜まるらしいと聞いた。
とりあえず探索のために歩き出す。すると茶色のウサギがいるのが見えた。
「見た目は普通のウサギと変わらないわね」
近づいて行くと気づいたのか、こちらに顔を向ける。顔を見ると普通のウサギではないことがわかる。眼が赤く、並々ならぬ負の感情が伺える。
「やっぱり動物型の魔物は恐ろしいわね」
今のところ魔物は一匹残らず眼が赤い。それに人間を憎んでいるのか、ものすごく殺気立っている。それが動物型はより顕著に表れる。
そんなことを考えてると、ウサギが跳びかかってきた。構えていた包丁に属性変更・火を付与する。茶色だと土属性っぽいから弱点の火属性にしてみた。
「フッ!」
跳びかかってきたウサギを横に避けながら、包丁で胴を切り裂く。手応え的に弱点っぽいから、やっぱり土属性だろう。
振り返るとウサギはよろめいていた。だがまだこちらに跳びかかってくる気配を見せる。
「(やっぱり動物型の魔物は生命力が強いな)」
見るからに致命傷だが、それでもまだ動けるようだ。スライムと違って傷がわかるから油断しそうになるが、魔物の生命力は普通の動物とは格が違う。この状態でもこちらを殺せるだろう。
「まあそんなことありえないんですけどね!」
そして危なげなく、さらに二度切りつけることでウサギは倒れた。後に残ったのはスライムとほとんど変わらない大きさの魔石だ。
「ほとんど変わらないように見えても、内包している魔力量が違うらしいけど……」
途中で手に入れたスライムの魔石と比べてみるが、全然違いがわからない。魔力っぽいのは感知できるようになっているが、詳しくはわからないから役に立たないし。
「とりあえずは2階層の魔物も余裕かな」
ポーチに魔石をしまいつつ、先ほどの戦闘を振り返る。弱点を付けたこともあるけど、3振りで倒すことができたのはよかった。もしこれが弱点属性を付けなくて、鍛冶師のスキル持ちが作った武器でもなければ、何十回と切らないといけなかっただろう。
「いやその前に武器の方が持たない気がする」
改めて包丁をよく見てみるが、ほとんど買った時と変わりはないように見える。一応毎日手入れはしているといえど、スライムを何十、何百と切りつければ耐えられないだろう。
となると耐えられた理由として考えられるのは、アビリティのおかげだろう。刀身を包むように魔力が広がっているから、刀身で直接切りつけてるわけではない。だから消耗が無いのでないだろうか。
「まああくまで予想だけどね」
とりあえず武器の心配はしなくてよさそうだから、このまま進んでみよう。そうしてウサギを倒していくが、その中で分かったことがある。
切る場所によってダメージが変わることだ。まあ当たり前だが、ここはゲームと違って現実だ。だから頭を刺せば一撃で倒すことができる。といっても頭蓋骨は硬くて貫けないから、うまい具合に刺さないといけないけど。
他にも足首を切れば動きづらくなる。逆に骨の部分は切ることができない。もちろん普通ならと注釈はつく。
「魔刃剣だと骨もお構いなしに切れちゃったから……」
試しに使って見たら、骨も関係なく切っちゃうんだもんな。あまりの威力に普段使いできないと確信した。まあ魔力の消費量的にも普段使いできないんだけど。
そんなわけでただ切るだけでなく、関節などの切りやすい部分を狙って切るようにする。その方が今後のためにもなるし。
「まあ今は包丁のような小さくて振りやすいのだからいいけど、長剣とかの長い剣になるとそういった部分は狙いにくくなるよね」
それでも無駄にはならないと思って、弱点を狙っていくことにした。ウサギで弱点を切れないと他の魔物ではなおさら切ることができないだろうし。
スキル「魔法剣」で最強を目指す 天星 水星 @suiren012
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