繁茂の果て

DA☆

繁茂の果て

 現校舎から少し離れたひとけのない場所に建つ、我が校の煉瓦造の旧校舎は、蔦が鬱蒼とはびこり、壁全体を覆っている。かつては「アイビーグリーンの学び舎」ともてはやされたらしいが、今となっては誰も寄りつかず、胡乱な雰囲気が漂うばかりだ。近づいた生徒は二度と戻ってこないなどと、ありがちな怪談話も広まっている。


 なればこそ、掃除をきちんとせねばならぬ、という話はわかる。しかし蔦の除去なんて、普通は冬枯れの時期の作業だろうに、なぜか生徒指導は小暑い今日にやれと鎌を渡してきた。しかたなく、汗だくになって繁った葉を払い続けた。


 と、払った先の煉瓦の壁に、あるはずのない扉が現れた。


 勝手に開いた。


 中は建物ではなかった。何重にもうねり絡まる蔓で埋め尽くされていた。なぜだかぬめぬめと光り、粘液がしたたり落ちていた。


 奥に巨大な花が咲いている。花弁が血のように赤い。あれは蔦の花ではない。


 脳をとろかしそうなほどの甘い香りが漂い出てきた。抗えない。引き込まれる。


 喜悦の声とも、獣の咆哮ともつかない音が、鈍く反響して聞こえた。


 あぁ。どうやら自分は、生け贄に捧げられたらしい。

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