第23話 最終話 余命――な兄貴

【2XXX年12月2日 月曜日】


 今日から日記をつけることにした。

 理由は兄貴との間にできたぎこちなさを埋めるため。

 やりこんだゲームだけでは直ぐ飽きが来てしまう。

 用は気晴らしだ。

 それと、思い出を残す為でもある。

 これまでたかが思い出と、ろくに残してこなかった。

 だから、何となく、始めた。


 元旦まで残り三十日。

 プレゼントは何が良いだろうか。


【2XXX年12月3日 火曜日】


 二日目にしてやばかった。

 気づけば兄貴を押し倒していた。

 罪悪感と嫌悪感で胸がいっぱいだ。

 我慢できる気がしない。


 いや、そもそもの話。

 本物とも偽物とも区別がつかないこの想い。 

 我慢する必要はあるのだろうか。

 法も秩序も何もかも塗りつぶされた今。

 俺は我慢する必要が本当にあるのだろうか。

 普通が失われた今。

 兄貴がもし、許してくれるなら。

 俺は…。


 元旦まで残り二十九日。

 まだ、時間はある。

 焦るな。


【2XXX年12月4日 水曜日】


 兄貴が俺をベッドに誘った。

 俺は手を引かれるがまま、添い寝した。

 特にこれといったことはしてない。

 ただの添い寝。

 寂しがり屋な兄貴。

 偶にあることだ。

 それ以上はなにも無い。


 元旦まで残り二十八日。


【2XXX年12月5日 木曜日】


 黒衣の青年。

 彼に言えばとりあえず食事やら物やらいろいろと用意してくれる。

 この狭い1LDKな家。

 おかげで常に兄貴と一緒だ。

 互いに本音を垣間見せたせいか、心休まる時がない。


 元旦まで残り二十七日。

 俺はまだ、迷っている。


【2XXX年12月6日 金曜日】


 二成の神。

 その肉体は二十歳を迎えると同時に死が訪れる。

 巨大なエネルギーの塊と言えるそれ。

 人の体では補いきれないという。

 しかし。

 兄貴は兄貴。

 死なせるわけにはいかない。


 元旦まで残り二十六日。


【2XXX年12月7日 土曜日】

 

 ラッシュな孤独配信。

 男の中の漢な姿。

 兄貴はその瞬間だけは楽しそうだ。

 

 でも、配信を終えた後はいつも目が逢い、気まずくなる。


 互いに無言。

 気のせいか、避けられている。

 この狭い生活空間で。


 元旦まで残り二十五日。

 兄貴が何を考えてるのか分からなくなってきた。

 些細なことで嫌われていないことを願う。

 

【2XXX年12月8日 日曜日】

 

 兄貴に好きな人は?、と聞かれた。

 どう答えていいのか分からなかったので、「兄貴は?」と返した。


 いる。


 即答に二文字。


 兄貴には好きな人がいるらしい。

 誰とは教えてくれない。

 でも王子様みたいにカッコいいらしい。

 ヒロインではなさそうなその人物。

 のろけ話のように色々と聞かされた。

 イケメンでも王族でもないユニコーンな俺。

 

 まさか黒衣の青年か?。

 と、殺意が湧き始めた。


 元旦まで残り二十四日。

 しばらく、食欲不振になりそうだ。


【2XXX年12月9日 月曜日】


 食料に消耗品を数日おきに届けてくれる黒衣の青年。

 気のせいか、兄貴が彼を見る目がそれっぽい。


 いや、気のせいかもしれない。


 元旦まで残り二十三日。

 募る不安で視野が狭くなっているのを感じる。


【2XXX年12月10日 火曜日】


 兄貴と喧嘩した。

 原因は書く気にもならないもの。

 男の嫉妬ほど見苦しいものは無い。


 黒衣の青年に任せ。

 俺はしばらく頭を冷やそうと思う。


 元旦まで残り二十二日。

 まだ、誕生日プレゼントは決まってない。


【2XXX年12月11日 水曜日】


 黒衣の青年に脅された。

 でも、俺は兄貴から離れた。

 背後から「腰抜けが」と罵られるも、下の階へと降りた。


 元旦まで残り二十一日。

 しばらく日記は書かない。

 気分じゃないから。


【2XXX年12月21日 土曜日】


 兄貴のもとから去って七日がたった頃。

 黒衣の青年が俺の前に現れた。


 兄貴が死んだ。

 そう告げられた。


 死因は他殺。

 黒衣の青年。

 彼がやったらしい。


 俺は人生で二度目の殺人を犯した。


【2XXX年12月22日 日曜日】


 死体は生前そのまま。

 死んでいるとは思えない。


 他種族の連中が兄貴の体をまるで物のように欲しがった。


 渡す気はサラサラなかった。


 拒否した途端、襲ってきた。


 だから全員殺した。

 目についた奴から、全部。


 兄貴を背負って歩く。

 あても無く只ひたすらに。


【2XXX年12月23日 月曜日】


 兄貴が目を覚ました。

 背負っていたらチョークスリーパー。

 びっくりして落とした。


 心臓も呼吸も止まっていた。

 なのに生きてた。

 流石は神様ということなのだろうか。

 訳が分からない。

 でも、よかった。


 それが夢じゃなければ、本当に。

 

【2XXX年12月25日 水曜日】


 巨塔から出て森の中。

 翼の生えた女が目の前に降ってきた。

 コイツも兄貴を、と思い殺そうとしたが、話があると言われて止めた。


 ことわりほか

 

 翼女がいうには、そこへ行けば完全なる過去・・・・・・へと戻れるらしい。


 行き方は単純。


 この世に生きる全ての人を殺せば行けるという。


 神気を宿した刀。


 黒衣の青年から奪い取ったそれで、ひたすら人を殺す。


 そうすれば、兄貴が死ぬ未来も何もかもを変えられる力を得るという。


 本当かどうかは分からない。


 でもクリスマスプレゼントにしては充分。


 腐敗の一つも無い体。

 それを最後に抱き、燃やす。

 

 翼の女に招かれるがまま、俺は全ての人を殺す旅に出た。


【2XXX年1月1日 水曜日】

 

 数が少ない獣人から殺した。


【2XXX年1月7日 火曜日】


 自称世界最強な種族、龍人を殺した。


【2XXX年1月10日 金曜日】


 人間を一番憎んでる枯人を殺した。


【2XXX年1月12日 日曜日】


 翼人を滅ぼし、ついでにここまで案内してくれた女も殺した。


【2XXX年1月20日 月曜日】


 鬼人の根源である鬼火。

 それが湧く発生地を悉く潰してまわった。

 守っていた奴らも全部殺した。

 

 現存する鬼の者はただ一人。

 最も厄介なのが残った。


 鬼神つらぬきのソフト。

 何処にいる。


【2XXX年1月21日 火曜日】


 経過報告のため、兄貴の墓所に来た。

 そしたら鬼神がいた。

 ただ佇み、兄貴が眠る場所を見てた。


 隙だらけ。

 思いのほか楽に殺せた。


 最後の一人。

 ようやく殺し切った。


 約十年間、少しずつ研ぎ澄まされていく刀と力。


 これでようやく終われる。








【2XXX年1月1日 月曜日】


 今日は兄貴の14歳の誕生日。


 父の書庫から出てきた埃を被ったミモザの栞。


 俺はそれそのままにプレゼントとした。

 


―― 後書き ―― 


 最後までお読みいただきありがとうございました。


 「このままだとエタるッ!!」と思い、無理やりに完結させました。


 書き始めた当初から決めていたバッドエンド。


 物語は未来から過去へ。


 バッドエンドを回避するため、主人公の雪美は日々、奔走することでしょう。

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男の娘な兄貴はVTuber 馬面八米 @funineco

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