第22話 余命29日な兄貴
俺は兄貴のことが好きだ。
likeではなく、loveの方で。
今、この瞬間にでもそういう関係に成りたいと思っている。
だがしかし。
この気持ちが本物なのか偽物なのか。
正直なところ分からない。
老若男女、五種族同盟、関係なく「人」で在れば魅了する存在。
その強制力は、一目見た時から例外なく働き、その者の心を掌握する。
一種の洗脳の様な状態。
それが働いた結果の好意。
本物なのか偽物なのか。
果たしてそれを判断できるものはこの世に居るのだろうか。
少なくとも俺は、分からない。
「ゆ、……雪美」
一般的な一人暮らし用の1LDK。
兄貴の趣味全開に彩られた部屋。
そこまで広くはない。
気晴らしに外へ出ようとすれば、どっかの中二病な恰好をしたやつが「戻れ」と告げに来る。
この部屋からは離れられない。
そしてその主である兄貴からも。
同居生活が始まって一日と数時間。
俺は今、兄貴をベッドに押し倒していた。
「急にどうした……、俺、怒らせるようなことしたか?」
ほんのりと朱くなっている頬。
火照り始めた身体からは汗が滲み、その色白な肌を艶めかしく滑り落ちる。
瞳の色は尚もみえない。
しかし、その美しさ、愛らしさが損なうことは無い。
むしろ「見えないからこその」というチラリズム的な効果のせいで、それらに拍車が掛かり、より魅力的にこの目に映りだす。
「はぁ…はぁ」
「……はぁ…はぁ」
呼吸は静かに、それでも荒く。
互いにそれさえ届く距離。
息を潜めさせ。
湿った唇が、求めあうように近づき、そして――…、
―――こつんっ。
「熱、…は無いな」
「あ、あぁ」
軽率な兄貴。
医療箱なんて言うものは当然ない。
体温計なんていう物は言わずもがな。
だからこうして額と額を当て、熱を測る。
互いに平熱、異常なし。
俺はゆっくりと上半身を起こし、シングル用のベッドから降りた。
「風呂、入ってくるは」
「………うぃ」
か細い兄貴の返事。
それを背後に、俺は風呂場へ向かう。
悶々としたものが腹の底から湧き上がってくる。
偽物に突き動かされたのか。
本物に突き動かされたのか。
兄貴を襲おうとした。
俺が。
弟の俺が。
欲望のままに、兄貴をベッドへと押し倒し、そして――…、
「ぅッ!!」
凄まじいまでの罪悪感と嫌悪感。
同時に襲われ、シャワーを浴びながら吐き気を催す。
口に手を当て、俯く。
どれだけ理性で否定しようとも、本能は求める。
その後、湯も張られていないのに長風呂となった言い訳を俺は必死に考えた。
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