第21話 余命30日な兄貴
「ヴァナシがチガウッッ!!」
「どういうことだッ、仮面野郎ッ!!、ガルゥルルァア゛ッ!!」
「二成と初めに
兄貴との同居生活が始まって一日目。
色々と同居する為の準備をしに下の階層へと向かう途中。
何やら騒がしくする声が三つ、階をいくつか跨いだ下の方から聞こえてきた。
人間側はほぼ全滅状態。
さらにはその柱となる竜神も討たれた。
誰が騒いでいるかなんて考えるまでもない。
戦争が終わりを見せても、争いそのものが終わることはない。
俺は階段を一気に駆け下り、三つの声の内、一つへと斬り掛かった。
「むッ、何奴!!」
全身を鱗で覆ったトカゲの様な男。
その首を跳ねようとするが、寸前で躱された。
肌をピリつかせるほどの圧。
その辺に出没するような木っ端ものではない。
瞬時に理解し、更なる追撃を加えようとする、が――…、
「待て」
黒衣の青年が、トカゲ男と俺の間に割って入る。
「何故止める?、こいつは人間、殺すが我々の目的ぞ」
「そいつは尊の弟、殺すな」
「……弟、だと?」
周囲から向けられる疑惑の視線。
俺は少し距離をとり、階段を守る様に立った。
「そこそこ腕は立ちそうだが、それだけ、気配も容姿も雑兵のそれと変わりない、これが弟とは笑わせてくれるな、仮面の男よ」
「用はよぉ、俺ら出し抜いて、こいつに
怒りを乗せた咆哮。
獣の様な耳に尻尾を持った巨漢が、黒衣の青年の制止を振り切り、突貫してくる。
目にも止まらぬ速度に、大砲のように次々と繰り出される剛腕。
受けきれないと判断するや否や、俺は回避に専念。
猛襲による猛襲。
全てを回避し、時たま刀を振るうが、斬れるのは薄皮一枚程度。
殺しきるには同じ個所に万の斬撃を浴びせる必要がありそうだ。
傷を負うたびに秒で塞がる分厚そうな皮膚。
つまりは無理ゲー。
俺の勝ちは無い。
クソ化け物が。
―――ズンッ。
最後に頬を鋭利な爪が掠ったと同時、猛襲がなんの前振りも無く止む。
何が起きたのかと体を捻って着地すると、目の前の獣な巨漢の両手首が宙を舞っていた。
「尊の居する所、穢すのなら、殺すが?」
今しがた動いたであろう黒衣の青年。
台詞一つで、次いで動き出そうとしていたトカゲ男を征する。
そして、圧倒的な威圧感を放ちながら、獣男、ではなく、黒衣の青年は俺へと近づき、襟首を掴んできた。
「お前は尊の傍を離れるな、愚図が」
「うおッ!?」
圧倒的力で階段の上の方へとぶん投げられる俺。
器用に回転しながら、踊り場に着地。
すかさず視線を下の方に向けると、黒衣の青年が俺と立ち位置を変わる様に、階段の前に陣取っていた。
その様子を見て、どうやら助けられたらしいと、悟る。
敵ではないが味方という感じでもない。
あいつは一体、どの立場に居るんだ…。
「用があるのなら後で聞く、部屋に戻れ」
「……わかった」
今しがた襲ってきた獣な巨漢。
最後にお互い睨み合った後、俺はとりあえず言われた通りにしようと階段を登る。
「マデェッ!!」
階段を登ろうとしたところで下から咆哮。
人の形をギリギリ保っている黒い化け物。
ここに来るまでに一度会ったそれ。
四つの緑眼が、俺を射抜くように見つめてくる。
「主神ハ、貴様ニナント言ッタ?」
「……は?」
脈絡のない質問。
一体、何を口にしているんだと思ったが、なんと無しに化け物がいう主神とは、それに似たあいつのことかと気が付く。
「……古き友だとかなんとか」
「ソウカ」
何がソウカ、なのか分からないが、四腕に二足に四つの緑眼をもった黒い化け物は、踵を返し、重々しい音を響かせながら、階を降りていった。
…なんなんだ、こいつら。
自己完結しがちな黒い化け物二体。
謎に思いながらも、黒衣の青年に後を任せ、再び兄貴の下へと俺は戻った。
「…おかへり」
襖を開けラッシュな間取り。
ベッドで孤独配信をしながら、どこか気まずそうな様子で兄貴。
俺は「ただいま」と返し、ぼりぼりと口へ頬張っていたシャカリコを没収。
寝っ転びながらひたすらお菓子。
体に悪いったらありゃしない。
まったくうちの兄貴は健康のケのじも気にしないタイプなんだから。
呆れるほかない。
「は、早かったな…」
「あの中二病野郎に追い返された」
「中二病……あぁ、あの人か」
「そう、あいつ」
「ふーん、そうなんだ」
「うん」
「……」
「……」
「何で黙る?」
「兄貴こそ」
喧嘩をしてもすぐ仲直りな俺たち兄弟。
それでも漂う気まずげな空気。
原因は数十分前に交わした本音のやり取り。
私を晒した兄貴。
推し活を晒した俺。
互いに気まずくなるのは当たり前。
まるで付き合いたてのカップルのような、ぎこちなさが間にある。
いや、別に付き合ったりはしてないのだけど。
まったくもってそういうのじゃないんですけど。
「…一緒に、ゲームでもするか?」
「あぁ、やるか」
戦争が終結しても残る外の問題。
それに若干意識を引っ張られながらも、内の問題を優先し、手渡されたコントローラーを俺は握った。
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