星凪の夜に花束を

@faaa

第1話

聖書第1章

1.ファンファーレを響かせた神は天と地を作り、そして自らの血をつかい七人の人間をそこに産み出しました──


「──────────……てのニュースです。昨夜午前0時大阪市の民家で一人の男性の遺体が発見されました。遺体には背中まで届く刺し傷があり、以前にも似た犯行があり警察は連続殺人の線で行方を追っています。続いてのニュースです。パンダのあか……!──────────」


2.神は人間たちに知性と感情を与えました──


「ねぇ、あんた。この時間ってニュース以外にやってる?私ニュースって嫌いなんだよねぇ〜」


「……なんなんだよお前!人なのかお前は!なぁやめてくれよ!……殺さないでくれ!金か!?……なんでもする!なぁ!」


3.神はそんな人間たちをたいそう愛し、自らも下の地に降り立ちました───


「私はさぁ質問してるの……。聞いたことだけ言ってよ、人間ってほんとイラつく……」


「……知らねぇんだよ!……俺は本当に知らな───!」


「もういいようるさい……、人間って死んでも糞なのどうにかならないのかな……」


4.そして神は楽しく幸せに暮らしました──


━━━━━━━━━━━━━━━




「むかしむかしあるところに……」


それは絵本の決まり文句だ。決まった事象に、決まった理。呪いのように続き、まるで当たり前のようにあるものに過ぎない。


なんの意味もない、ただの舞台装置の言葉。

その言葉がある時点で物語は既に終わっているのに。

まるでそれが重要かのように。物語の哀れな悲劇のその先に何があるかなんて自分の目で確かめればいいのに。


つまり何が言いたいかというと、知ったような口で結末を語る者は等しく愚か者だということだ。

──────────と道端 みちはた しずくは誰も居ない家で一人、ブツブツと永遠に喋っていた。


道端 雫 17歳

才色兼備という言葉がこの世で最も似合う人物。

勉強はありとあらゆるもの全てを網羅し、スポーツ競技をやらせればなんでもこなす恵まれた運動神経。

まさに非の打ち所がない完璧超人。


そして、この世界を創った神である。

嘘でも、なんでもない正真正銘の神様。


世界を一から創り、人間を産み出したちょっと凄い人である。

だから歳はざっと万歳はとうに超えている。


だが、さすが私と言うべきか。そんなに生きていても、めちゃくちゃ私は可愛いのだ。

この、美しく滑らかな淡い髪にスリムな体、そしてオマケに透き通るような瞳。まさに完璧!

1000年も生きているのにだ!さすが私!やはり上に立つものは違う!可愛い!


「─────……おいバ神様、いい加減にその唐突に自己紹介をする癖やめろ。あと自己評価もそこまでくるとやばいぞ」


「……そうよバ神様、今のあなたは至って普通のちょっと頭がおかしい平均的一般JKなんだからそういう自己評価は辞めなさい───あと早く出ないと遅刻するわよ」


「…………誰かは分からないけど君たち言い過ぎじゃないか?」


私が1人で気持ちよく自己紹介していると、後ろから唐突に暴言が飛んできた。

後ろを振り返らなくても何となくだが、こんな神に敬いも敬意もない言葉を言う奴は心当たりがある。


雫はゆっくりと振り返ると、腕を組み突っ立って私を生ゴミを見るかのごとく引いた目をした男女が二人が揃ってそこにいた。


「やぁやぁ滝君に広君じゃないか〜! 朝っぱらから何の用だい?」


「「何の用だい……」じゃないわよ馬鹿!学校よ!」


「そうだぞバ神様 遅刻するぞ」


そこに居たのは、スクールカバンと学生服を着た逢坂 広おおさか ひろ大石 滝おおいし たきがいた。


このちょっとアホそうで、長い銀髪をナビかせた可愛い子が逢坂 広。そして、このメガネをした陰気臭いのが大石 滝である。


「陰気臭い言うな」


どっちもピチピチの高校生である。


高校生男女。雫とは不釣り合いの年齢と地位の関係。

全てがまるで違いすぎる二人の関係は、いわば腐れ縁である。雫が一方的に切りたくても切れない関係。

私を好きすぎるあまり、この二人が私を離してくれないんだ。


───────突然だが、私とこの二人について少し昔の話をしよう。


私が平日水曜日2時、公園で一人悲しく砂遊びをしているとこの二人が近寄ってきたんだ。

いきなり近寄ってきては「なにしてるの?ひまなの?」と生意気にも舐めた口を言ってきた。


それと同情か哀れみか何か分からないが、あの時も2人は今回みたいな「何やってんだこの人……」と引いた目をしていたと気がする。

それが私たちの、初の運命の出会いである。全くもってろくな出会いではない。

私にとっては地雷がいきなり飛んできて勝手に爆発した感じだ。


ちなみに、神様ってのはいつの間にかバレていた。私は直接二人に言ってないんだがなんでだろうか、誠に不思議である。


「……前から言ってるだろ、勝手に私の家に入ってくるなと 不法侵入でぶち殺すぞ君たち」


「やってみなさいよ!いったい朝っぱらから一体何してんのよ!」


「創っているのさ 頭の中で新しい地球を 実験さ」


「なんの!」


「実験の意味かい?知らんよそんなの ただの暇つぶしの実験さ そこに意味なんてない」


「─────あぁぁぁぁぁぁ!!朝から難しい話を!なんであんたはそう!いつもいつも何時も自分勝手なのよ!!……大石ナイフちょだい!」


「なんでもいいけどさ……僕だって遅刻したくないんだ さっさと終わらせてくれよ」


すると滝は言われた通り、スクールカバンから折りたたみナイフを取り出し広へと手渡した。


「広君……そのナイフで一体何をするつもりだい……?」


「こうするのよっ!バ神様っ!」


嫌な予感がする。

そうだこれはろくでもない予兆だ。感と言ってもいい。私はこの12年間この馬鹿な子と一緒にいて少しは理解しているつもりだ。


そして今来たろくでもない感は多分だがあっている。

確実に広は殺しにかかってくる。だって広が私を見る目がヤバいもん。


そして雫の予想どうりと言うべきか、ナイフを受け取った広は迷いなく雫の額へと投げつた。

なんの迷いもなく、正確に、ど真ん中に殺意を込めた一撃。


だがその一撃は雫の脳へと達する事はなかった。


「あぶっ!躊躇とかないのかな君は?!!」


「……そんなこと言う割には傷一つ着いていないみたいだけど?」


「君ねぇ……」


広の言う通り、雫には傷一つついていない。それどころか、ナイフだった物が床一面に飛び散っている。

ナイフが木っ端微塵に壊れた。雫の方ではなく、ナイフがだ。


ありえない事である。だが、道端 雫という人物は想像をはるかに超えるありえない相手である。



──────この世界の神、道端 雫には力がある。神としての力が。森羅万象を起こす力が。大地を揺るがし、時を操り、そして世界を壊せるほどの力が。


だが、そんなものはこの世界に降りたってとうになくなってしまった。


神とて世界の一部だ。自ら生み出したものでもそこにシステムとしては入っている。故に、この世界を壊さないため弱体化と言うべきものがついた。


能力の殆どは制限され、神という力はないと言ってもいい程弱まってしまった。


だが、彼女は神だ。迷いなき正真正銘の神

そんな神に一つだけ許された力がある。


それは生命の源、血を操ることである。自分以外の血は操れないが、それでもできることは大いにある。


血を操ること、たったそれだけで何が出来ると思うかもしれないがナイフなんてものは簡単に壊せる程度には強力な力が備わっている。


まあ、要するに何にでも好きにか形を変えられていつでも好きな時に出せるガチガチスライムとでも思って欲しい。


「……分かっただろ 君が何をしたって私はここから動かないし動かせない。……ほらさっさと学生たちは学校へいったいった」


「……分かったわ 学校に来ないというのならあんたの全裸写真をクラスの男子に渡すから」


広はカバンからスマホを取り出し、写真フォルダの中の一枚を私に見せつけてきた。

それは、この前広と一緒にお風呂に入った時に撮られた私の美しい全裸フォルムである。


「はぁぁ?!!それはなしだろ!てゆうか普通にだめだろ!!」


さっきも言ったが、こいつはなんの躊躇もなくナイフを投げたり私の裸体を他人に流せる女だ。

もし、こんな写真をクラス男子に流されでもすれば、私の社会的人生が終わってしまう。


「……どう?行く気になった?」


「……分かったよ!行けばいいんだろ行けば!……本当に君の身勝手さには呆れるよ」


本当に……、広の身勝手な行動にはいつも迷惑している。私いちよう神様なんだけどな……。

──────────だけどまぁ、いいか。

私は人間が好きなんだから。


雫は制服をき、急いでカバンを持って玄関へと向かう。


「ほら君たち!さっさと行くよ!」


「なんであんたが仕切ってんのよ……」


「まぁ、なんでもいいけどさっさと行こうよ……」


「よし!それじゃあ君たち行くとしよう!」

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