行方不明だった男性がA県F市の自宅で腰を強く打った状態で死亡しているのが発見されました。

たたみ まいるど

【行方不明だった男性がA県F市の自宅で腰を強く打った状態で死亡しているのが発見されました。】

 休日の朝、俺はベッドの上でゴロゴロしながらスマホでなんとなくニュースサイトを見ていたら物騒なタイトルの記事が目に入った。


「腰を強く打った状態で発見されるの、これで三件目じゃん……住んでる県でこういう事件が起こるの怖いなぁ」


 ニュースサイトを見終えた俺は、そろそろ朝のコーヒーでも淹れて飲もうかと立ち上がると、スマホに非通知の電話が掛かってきた。心当たりが無かったので無視してキッチンに行こうとすると勝手に通話状態になり


『もしもし……私、おじさん……今、お尻に拳が入っているのですが……ハァ……ハァ……』


 と言って通話は切れてしまった。


「朝っぱらから変質者かよ……それにしても何で勝手に通話状態になったんだ?」


 スマホの通話設定を確認するとそもそも非通知は拒否する設定だった。通報も考えたがどうせあまり意味は無いだろう。

 結局、変質者からの電話という事しか分からず、考えるだけ時間の無駄だと思いコーヒーを淹れる事にした。

 あれから数日が経ち、また非通知で電話が掛かってきて勝手に通話状態になり


『もしもし……私、おじさん……今、尿道から出ちゃいけない色の体液が溢れて止まらないのですが……ハァ……ハァ……』


 またあの変質者からだった、気持ち悪い。

 それから何日かおきに変質者から電話が掛かってくるようになった。


『もしもし……私、今おじさん……あっ、間違えた……ハァ……ハァ……』


 間違えるな、それと電話掛けてくるな。


『もしもし……私、おじさん……今、お尻が凄く痛いはずなのに全く痛くなくて怖いのですが……ハァ……ハァ……』


 俺の方が怖いよ、とりあえず病院に行って下さい。


『もしもし……私、おじさん……今、A県ザザッザッザッザーにいるの……助けてください……』


 どういう事?……助けて欲しいのはこっちだよ……誰かに相談しようにも内容的に難しいし、通報しようにもノイズ音が入ったせいで場所がよく聞こえなかったし。

 詳しい場所が聞こえていればこの変質者を通報してやったのに。


『もしもし……私、おじさん……今、肛門がほどけてるの……ほどけてるってなにぃ?……怖いよぉ、助けてぇ……ワァ……アァ……ンオッ……グチャッッッ……』


 こっちも怖いよぉ……ほどけるってどういう事なの……最後のグチャって音も何なんだよぉ……

 この電話を最後に変質者から電話が掛かってこなくなった。


 最後の電話から二週間ほど経った休日の朝、変質者の事など忘れかけていた俺はベッドの上でゴロゴロしていた。

 そろそろSNSでもチェックしようと、ベッドから起きてテーブルに置いていたスマホを取った瞬間、俺の真後ろに何かがハァハァと荒く呼吸する音とその何かから嗅いだ事の無い異臭が漂ってきた。

 俺は怖くなり、とにかく部屋から出ようとした瞬間、尻に強烈な違和感をお覚えた。


「んっ……何これ……尻に……んんっ……」


 尻という言葉で忘れかけていた変質者を思い出し、嫌な予感を覚えた俺は、後ろにいる何かを刺激しないように、震える手で恐る恐る尻を確認した。


「あぁ……尻に……尻に……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

行方不明だった男性がA県F市の自宅で腰を強く打った状態で死亡しているのが発見されました。 たたみ まいるど @tatami01ld

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ