さしすせそうめん

古間木紺

さしすせそうめん

「皿出してくれ、莉菜」

「はーい」

 わたしは読んでいた本を閉じた。台所に入って、料理中のお兄ちゃんを覗き見る。……昼食のメニューはきっとアレだ。

「皿はこれかな〜」

 うちの台所は狭いから、食器棚から出したお皿はダイニングテーブルに置いておく。

「しそだな、次は」

 お兄ちゃんは鍋の様子を見ている。わたしに視線をやることなく、次の指示を出してきた。

 しそを取りに、わたしはベランダに出た。うちのバルコニーで育てているしそは、料理で薬味が必要なときに使う分だけちぎることになっている。今はお兄ちゃんとわたしだけだから、たぶん2枚で大丈夫。

「酢と〜」

 耳に入ってきた調子外れの歌声に、わたしはくすりと笑った。

「醤油を〜ま〜ぜ〜る〜」

 しっかりワンフレーズ歌うお兄ちゃんに、収穫したてのしそを渡す。この料理を作るときはいつも歌っているし、たぶんお兄ちゃんが作った歌のはずなのに、なんかいつも上手くない。

 でもそれは言わないお約束。真面目な顔してぼそりと変なことを言うお兄ちゃんらしさが全開だから、そのままにしておきたい。

「そうめん茹で上がったぞー」

 お兄ちゃんがそうめんを半分に分けていく。酢醤油をかけて、その上にしそを散らして完成。

「わ、今日もおいしそう!」

 台所から皿を運ぶのはお兄ちゃんで、わたしは箸を並べる担当。そうしてセッティングして、向かい合わせに座って食べ始める。

「これが料理のさしすせそだからな。覚えとけよ」

 得意気に言ってのけたお兄ちゃんは、勢いよくそうめんをすすった。いやあのね。

「このやりとり何回目よ! 違うってもう知ってるから!」

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さしすせそうめん 古間木紺 @komakikon

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