第3話 異世界の洗礼

俺は今猛烈に興奮している。

目の前には、青くてにゅるにゅるしたスライムがいる。

アニメやラノベの中で何度も見てきた存在。だが、今は画面越しではなく、実物が俺の目の前でうごめいているのだ。


「本物だぁぁぁぁぁぁ!」


俺の声が森中に響き渡る。


興奮と恐怖が混ざった感情に頭が追いつかない。スライムだぞ?ラノベの序盤で主人公がよく倒す相手。あの雑魚中の雑魚が現実に目の前にいるなんて!


しかし――このスライム、近づいてきてないか?


「お、おいおい待て待て待て!」

足元まで迫ってくるスライムに、俺は後ずさる。だが、背中にはすぐに木があった。逃げ場はない。


「やばいやばいやばい!」


スライムはまるで興味津々とでも言いたげに、どろどろとした体をうねらせてさらに近寄ってくる。そのたびに、俺の心臓はバクバクと音を立てて跳ね上がる。


「やるしかないのか!?」


ラノベの主人公ならここでスキルを発動して簡単にスライムを倒すはずだ。でも、俺にはスキルらしいものが発動した形跡もなければ、武器すらない。


だが、黙ってやられるわけにはいかない!俺は意を決して近くに落ちていた太めの枝を拾い上げた。


「くらえぇぇぇ!!」


その枝を振りかざしてスライムに叩きつける。だが――


ぐにゅっ


手に返ってきた感触は最悪だった。全然効いてない。スライムの柔らかい体が枝を吸収するように包み込む。


「えっ、なにこれ?」


枝を引き抜こうとするが、スライムの体はそれをがっちりとつかんで離さない。


そのとき、俺の手に何かが起きた。


ピリリ――


スライムが一瞬だけ震えたように見えた。


「え?」


次の瞬間、スライムは突然パチンと弾けるようにその体を砕け散らせたのだ。青い液体が辺りに飛び散り、俺は間一髪で顔を守ることができた。


「な、なんだこれ……?」


手を見る。特に変わった様子はない。力が強くなったような感覚もなければ、何か特別なスキルを使った実感もない。ただ、一瞬スライムに触れた手がジワリと熱を帯びた気がしただけだ。


スライムだったものの残骸が地面にじわりと吸い込まれていく。それを見ながら、俺はひとつ確信する。


「俺、いまスライムを倒したよな……?」


混乱と不安の狭間で

俺はしばらくその場に立ち尽くしていた。ラノベの知識ではスライムなんて簡単に倒せるモンスターだ。だが、現実に戦うとこんなにも恐ろしい。しかも俺はどうやって倒したのか分からない。


「まさか...この木の枝が伝説の棒だったりして...」


そう思って、近くの木の幹に木の枝を近づけて見せる。だが、木は何の変化も見せない。ただの木だ。


「……いや、そんなわけないよな」


さっきのは偶然だ。きっと何かの拍子でスライムの弱点に触れたのだろう。そう思わないと、この異常な状況に俺の心が耐えられそうにない。


森は続く


時間は夕闇に差しかかっていた。森はだんだん暗くなり、薄気味悪い雰囲気が漂い始める。


「まずいな……これ、本当にまずい」


夜の森がどれほど危険かは、ラノベやゲームで嫌というほど学んでいる。モンスターが活発になる時間帯だ。スライムですらこれほど恐ろしいのに、これ以上強いモンスターが出てきたら確実に終わる。


「どこか、明るくて安全な場所……」


そんな場所があるか分からないが、動き続けるしかない。俺は再び歩き始めた。


……そのときだった。


ガサガサ……


「!? また何かいる!」


音がした茂みに振り向き、身構える。手元に武器になるものはない。さっきスライムに飲み込まれた枝は役に立たなかったし、どうにかするしかない。


しかし――


何も出てこない。


ただの風だったのだろうか。それとも別の何かが音を立てただけか。


「......気にしすぎか......?」


恐る恐る茂みに近づくが、そこには何もいない。ただ、俺の不安はますます大きくなる一方だった。


......もうどれだけ歩いただろうか。


辺りはすっかり暗くなり、夜の森は静寂と不気味な音で満ちている。


お腹が空いた。食べ物がないのは覚悟していたが、この空腹感は予想以上にきつい。木の実や果実らしきものを見かけても、それが安全なものか分からず、手を出す気にはなれない。


静寂を破るように、遠くから聞こえる鳴き声。


ガオオオォォォン......


ライオンだろうか。いや、現実のライオンがこんな場所にいるわけがないのは分かっている。でも、何か分からないものだと考えるより、ライオンだと思ったほうがまだ気持ちが楽だ。


俺はそう信じ込み、先が見えなくなるほど歩き続けた。


「クソ......辛い、苦しい......こんなことになるなら異世界ラノベを読んでいたほうがマシだった......」


自嘲気味にそうつぶやく。体力も気力も限界に近い。足が棒のように重く、歩を進めるたびに息が切れていく。


そのとき、ふと耳をつんざくような低い声が聞こえた。


「......それでさぁ~」


「......え?」


周囲を見渡すが、そこには誰もいない。ただの幻聴だろうか。空腹と疲労で、とうとう頭がおかしくなったのかもしれない。


しかし、再び声が響く。


「......でな!魔王様がな!」


茂みの奥だ――声がする方向を見つめると、そこに黒い影が動いた。たぶん人間だ。だが、それが何であるかもはっきりとは分からない。

手元には武器のひとつもない。ただ、いざという時はできるだけ大きな声で威嚇するしかなかった。


目をなんどかこすると、ようやく目が夜に慣れてきたのか

夜目へとなっていく


――ゴブリン? まるで人間のような体格をした、緑色の人型モンスターだ。目は赤く光り、知性を持った何かのように見えた。


「......や~そろそろ帰らないとな」


その言葉に、俺の身体は硬直した。


――あいつ喋っている!?


緑色の二匹の人型モンスターはどこか闇へと歩き出す


喋るモンスターがいる。ここはやっぱり異世界なのだ。


――帰る?


これは好都合だ。危ない選択ではあるが、もしかしたら家などがあるのかもしれない。


そして森の奥へと歩き出す。


運命――俺は立ち尽くしたまま迷った。だが、このまま夜の森に取り残されれば、確実に死ぬだろう。


俺はゴブリンの後を追いかけた。


ゴブリンの背中を追い続けるうちに、どれほどの時間が経ったのだろうか。気がつくと、森の闇の中にぽっかりと開いた異様な空間が目の前にあった。


それは黒い光を放つ門――いや、ゲートとしか表現できないものだった。まるで空間そのものが切り裂かれたような、異質な存在感を持っていた。


「これは......何だ?」


俺が呆然と見上げると、ゴブリンがゲートの前で立ち止まった。


「魔王様に怒鳴られないといいけどな」


「だな」


二人が言っている意味はよく分からない

だが、ここで引き返す選択肢など俺にはなかった。


「行くしか......ないか」


俺は意を決し、ゲートへと足を踏み入れた――。


------------------------------------------------------------------------------------------------

朱華ナツメです(。・∀・)ノ


投稿全然してなかったですね


色々やることが立て込んでまして


すみません。


カクヨムコンテスト10にもエントリーしたので

これから投稿していくと思います


...実際のところは分からない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クラス転移したら魔王軍に行くことになったのだが、どうしたらいいだろうか? 朱華 ナツメ @20241110

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ