第3話 濡れちゃってもう大変



(彼女の家の外)

(わんわんと犬の鳴き声)

(電灯のぱちぱち音)

(近寄ってくる足音)



(隣から)


「ごめんね、

 ありがとう~~~~(顔を手で隠しながら)」

 

「荷物の救出、付き合ってくれてありがと……!」



(荷物を掴む)


「え・あっ、(焦った様子で)

 に、荷物、ありがとぅ……!

 ごめんね、何から何まで、

 ……はぁ~こんな筈じゃなかったのに……」



(なり続ける靴音)



「……まさか水濡れの被害に遭うなんて(愕然と)」

「ベッド? 濡れまくり。びちゃびちゃ。」

「全補償になるみたい。上の人の過失だから、ちゃんと補償されるって」




「え? 

 うん。

 着替えとか貴重品とか、タブレットは大丈夫だった。


 持ち出せるものは出せたんだけど、あれじゃあしばらく住めそうもないって……」

(絶望)



(カツカツこつこつ……)




「はあ、ネカフェ探そ……」

(スマホを取り出す音)



(あなたの足音がそこで消える)




「え?」

(意表を突かれた声)


(彼女の足音が消える)



「え? それ、本気で言ってる?」

「『俺のとこ来る?』って、本気で言ってる?」


「『ひとへや空いてる』って、ほ、本気で……!?」



(少しの間)



「……えええええ~……、(困惑の様子)」

「そっ

 えぇ?

 そ、そんなの悪いよぉ、だって、あたし、」


「い、嫌じゃないっ、

 いやじゃないけど、だって、」


「ちがうちがう、

 だ、だって、ほら!」


「──か、

 彼女さん!

 彼女さんに迷惑じゃないっ?」




「──え。(低めの音)

 ……へ、へえ、(上ずり)

 か、カノジョ、居ないんだ、へえ〰〰〰…………(高めの声)」



「……そっかぁ、

 カノジョ居ないんだ、へぇ、

 ……そっかぁー……」

(考えを整理するような、上ずった声で)



「……じゃあ、あたしが行っても、問題ない……の?」

(もじもじ)



 (上目遣いで照れてる風に)

「………………なんもしない?」


 

「『体で奉仕して』とか言わない?(困惑気味のテレ)」



「『何でも言うこと聞け』とか……、言わ、ない……???」



(虫の声)



「……う。

 あ、

 ごめん。

 君、心配してくれてるのに。

 疑ってごめん、

 ごめんね?」

 



「じゃあ、お邪魔してもいいかな……」

「お世話になってる間、家事、するからっ」



「ご飯も作るね?

 君、ラーメン漬けで身体心配だし」



「え? 

 『料理できるの?』って?」



「……ふ・ふ・ふ♡

 独り暮らしウン年で薄給のあたしを舐めて貰っちゃぁ困るなぁ~♡

 もやしはあたしの相棒だぞっ?」


「知ってた?(はしゃいで得意げに)

 もやし茹でて、ごま油を回しかけて、油のバリア張った後にね?

 ニンニクチューブと塩コショウで和えると、

 まっっっっっっじで美味しいのできる!

 マジで!

 作ってあげるよ! マジ旨選手権一等賞だから!」




「────え……?

 『被害に遭ったのに元気だな』って……」


「………………(溜息)」



(自嘲気味に)

「……さっきまでは絶望だったよ?

 でも、君のおかげでナントカ。

 闇落ちせずに済んだっていうのかな……(弱弱しくも明るく)

 君が居なかったら、部屋の前で立ち尽くして何もできなかったかもしれないし……」



(強がりの声で)

「不幸中の幸いって、こういうこと?(笑)」

「捨てる神あれば拾う神あり、みたいな?」



「あー。っていうか。」

(切り替えるような声で)




「……あのぉ……

 ほんとにいいの……?

 いいのかなぁ……(不安そうに)

 君に甘えちゃうみたいで、なんか……えっと……」





「……じゃあ、お邪魔、しますっ(ちょっと照れくさそうに)」




「……はあ(緊張を逃がす息使い)」

「……君の家、行くと思ったら緊張してきた……っ」




「……緊張するよぉ~~、

 だって、だって・・・ねっ?

 だってさぁ~~~ッ……!」

(もだもだした様子で)






「……ちょっと。

 今聞こえたぞ?

 『なんだこの漫画展開……』って、聞こえたぞっ?


 それこっちのセリフだしっ!

 あはははっ!」




 続き




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