第40話 その後……

 春になり、桜が咲き始めてくると新入生を迎える季節になる。それまで先輩しかいなかった状況から初々しい一年生が入って来るという訳だ。


 だが、俺は一つ懸念している事がある。


 そう、俺たちのバンドは知名度も上がってきているのだが、それ以上にメンバー同士が仲が良すぎる節がある。活動していく上ででは問題の無い事なのだが、後輩が来るとなると話が変わってくるのだ。


 そんな中、実質俺はバンドを組んでいない。もちろん【インサイトシグナル】で俺は曲作りの協力をする事もあったりして、日々のギター練習もしている。それに様々な対バン相手との交流で、バンドの運営の知識もついていたから、新しいバンドを組むという選択肢もある訳だ。


「うちらも三年だし、受験勉強もしなきゃだな」

「両立させるのが重要なのだよ」


 とまぁ、先輩二人はなんだかんだで活動していくつもりなのだが、それとこれとは話が変わって来る。


「藤原先輩……先輩はギターですよね?」

「そうだよ? わからない事があったら聞いてくれていいからね!」

「いや……バンドはしないのですか?」

「あー、それだよね」


 そう、【インサイトシグナル】のマネージャーでありながらバンドを組んでいないギタリストという俺は、新入生にとってはチャンスになるというわけだ。


「というか部活の案内って俺たちがするんですか?」

「去年はうちらがやっていただろ?」

「神崎はともかくゆっきーは絶対向いてないと思いますよ?」

「確かになぁ……話すのが苦手だけならまだしも、ギターの実力で憧れ通り越して心を折りに行ってるからなぁ……」


 とはいえ、顔もいいし知名度のある【インサイトシグナル】のメンバーが案内するのは宣伝になる。そんな中で俺は積極的に後輩がバンドを組める様にサポートをする事にした。


「結構今の時期がカギなんだよなぁ」

「そうなんですか?」

「実力があってもバンドのメンバーが集まらなかったり、バンドが組めない事には好きな活動はなかなかできないだろ?」

「そうですよね……」


 毎年の事らしいのだが、やはりギターとボーカルの志望者は多くバンドを組めずに去る者も多い。もちろん部活としてやっている以上、組めなかった者も合同で行う演奏の機会は作っている。


 色々誘われる事もあり、セッションした後輩もいくつかあり、実力のある子もいたのだけどあくまで俺はマネージャーを続けるつもりだった。


 そんな中、異色の逸材を発見してしまう。


「えっと……君は?」

わたくし白鳥麗奈しらとりれなですの」

「ですの!? あ、いや……それで、パートは?」

「ピアノですの」

「ピアノか……キーボードではなくて?」

「私、ピアノで【インサイトシグナル】でお世話になりたいと思っておりますの!」


 インサイトシグナルでって、うちのバンド希望なのか!?


「希望するのは自由だけど、【インサイトシグナル】はかなりレベルが高いから、それ相応の実力が求められるのだけど大丈夫?」

「もちろん、私◯◯国際コンクール、⬜︎⬜︎国際コンクール…………で金賞や入賞の常連でございますわ!」


 いやいやいや、凄いのだろうけど場違いなんじゃないのか?

 雰囲気や立ち振る舞いからみて、この人絶対お嬢様だぞ?


「亮太、どうしたんだ?」

「玲さん、丁度良かった。この人が【インシグ】に入りたいらしいのだけど、ピアノの実力者みたいで」

「ふむ……ピアノか。まぁ、アリなんじゃね?」

「アリってそんな気軽に……」

「だって雪にあの弾き方をずっとさせるのは勿体ないだろ? 上物が居ればまた幅も広がるしな!」

「それはそうですけど……」

「不束者ですがよろしくお願いしますわ!」


 試しに合わせるのをオッケーしたものの、キーボードみたいなものを持っているならともかく、クラシック出身みたいだし、ピアノって出来るライブハウスが限られてくるんじゃないのか? まぁ、キーボードで対応できるのか……。


「玲さん、本当にオッケー出してよかったんですか?」

「まぁ、キーボード入れる曲も楓は書いてるぞ?」

「そうなんですか?」

「チハルさんと組むまでは楓のパートは定まって無かったからな……二人でライブする気だったし」

「それ、初耳なんですけど? でも確かに、使い込まれたギターが家にありましたね」

「一応あいつは、ピアノ、ギター、ベースが弾ける。ついでに言うとうちにドラムを教えたのも楓だ」

「ある程度知ってましたけど、化け物じゃないですか……」

「流石に今は楓のドラムには負けないけどな!」


 そんな中、部活のかえりに購買近くの自販機の前に白鳥さんが立っていた。


 自販機なんか眺めて何やっているんだ?


「白鳥さん。オススメはそのゼリーだよ?」

「???」

「買いたいとかじゃないのか?」

「いえ、カードを差す所がないので……」

「ああ、うちの自販機はカードに対応してないから……ってカードはどこも対応してないと思うけど?」

「そう……なのですか?」

「って、なにその禍々しいカード」

「大体の物はこれで買えるのですけど」


 現金を持っていないのかよ。せめてQR決済なら代わりに出してあげてもいいのだけど……まぁ、ここは先輩らしく奢ってやるのもいいか。


「どれがいんだ?」

「では、オススメのゼリーがいいですわ」

「はい、これな。何回か振ってからじゃないと飲めないからな!」

「よろしいのですか?」

「まぁ、先輩だからな!」

「このご恩はきっと……」


 やっぱり彼女はお嬢様なのだろうか?


「良かったらピアノを聞かせて欲しいのだけど?」

「今からですか?」

「丁度鍵を返す所だったし、戻れば一曲位は弾く時間もあるかと思うのだけど?」

「それで良いのでしたら是非」


 なんだかんだで、聞いてみたいと思っていた事もあり俺はチャンスだと思っていた。誰もいなくなった音楽室に戻るとグランドピアノの前に向かう。


「これなら弾けるんじゃ無いかな?」

「はい、問題ありませんわ。それではどの様な曲を弾きましょうか?」

「何か得意な物でお願いします!」

「では、リストの曲を……」


 リスト? てっきりショパンとか、モーツァルトとか聞いたことのある曲かとおもっていたら知らない作曲家だ。だが、弾き始めた瞬間、彼女がなぜこの曲を選んだのかを理解した。


 超高速だが、繊細な指遣いと音。まるで何年も弾いてきたかの様な慣れた姿勢……いや、これはバンドでいいのか?


 確かにクラシックからピアノロックをしているアーティストは居る。けれども彼女の指先まで神経が通っている様な上品さは激しい曲にもかかわらずロックとは程遠く、まるで貴族の様だ。


 この技術をどう活かしていくんだ?


「どうでしょうか?」

「いや、凄いな……何でも弾けたりするのか?」

「楽譜さえあれば、指の数で足りる大体の曲はできると思いますわ……」

「指の数ってそりゃそうだろ!」

「最近は打ち込みの曲などもありますの……」

「なるほど……そういう事か」


 楓さんもピアノをしていたって話だし、もしかしたら以外な所から意気投合したりもするかもしれない。それに天才なら風間だっている、今更化け物が一人増えた所でそうそう変わる事は無いだろう、


 こうして俺たちは新しい可能性を胸に、新たなストーリーの始まりを感じていた。



─────

 最後までお読みいただきありがとうございました!

これでこのストーリーは完結です。もしかしたら続編を書くかもしれませんが、今のところは予定していません。


 また良ければ、他の作品もありますのでそちらも読んでいただけましたら幸いです。


 これからも作品を作り続けていきますので、引き続きよろしくお願いいたします。

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青春バンド女子とは付き合うな! 竹野きの @takenoko_kinoko

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