第39話 エピローグ②

「楓さん……本気でクリスマスを?」

「クリスマスパーティをすると言ったはずなのだよ?」


 うん……確かにそう言っていた。だが、彼女の事だから絶対何か訳の分からないサプライズをぶち込んで来るものだと思っていた。


「楓、これ全部一人でやったのか?」

「もちろんなのだよ」

「言ってくれたらうちも手伝いに来たのに!」

「確かに、ツリーは玲に手伝ってもらいたかったのだよ」


 もしかして、楓さんは結構浮かれていたりするのだろうか?

 とはいえ七面鳥が並んでいるとかはなく、至って普通のクリスマスパーティに見える。


「ご、ご飯が無い様に見えます」

「安心したまえ雪、ピザとチキンを頼んであるのだよ」

「ふ、普通だ……」


 すると彼女は赤と白の色の服をみんなの前に並べる。


「さぁ、君たちもこれを着るのだよ」

「さ、サンタクロースの衣装?」

「でもこれ、下がスカートになってますよ?」

「それは俺はむりだろ!」

「藤原くんにも用意しているのだよ?」

「……トナカイっすか?」

「全員サンタクロースではプレゼントを配れないのだよ」

「なるほど……」


 確かに俺にはこれが似合っているかもしれない。みんなを陰ながら支えているが重要なポジションだ。


「か、風間はトナカイがいいです」

「ならば雪のと交換するのだよ」

「まぁ、着たいならいいけ……いや、よく無いだろ。ゆっきーのはスカートのタイプだろ!」

「つべこべ言うな、男だろ?」


 生着替え……ではあったのだが、服の造り上上手く着れる仕様になっていてほとんどそのまま着替えれてしまう。俺は最後の抵抗でズボンだけは履いたままサンタクロースの衣装へと着替えた。


「みんな揃った事だし、私から一言」

「楓がいうのは珍しいじゃねーか!」

「今年は色々とあったのだよ。チハルが抜けた後、二人が入ってくれたり、藤原くんも入ってくれたりしてどうにか【インサイトシグナル】は活動出来る事となった」


 まさか、彼女が語り始めるとは思わなかった。


「だけど、私ももうすぐ三年。多分残された時間はあまり無いと思っているのだよ。けれども来年をしっかりとやり遂げる事が出来ればこのメンバーで続けて行けると思っているのだよ」


 そうだ。楓さんと玲さんは後三ヶ月もすれば受験の年を迎える。今後は活動だって何かしらの制限がかかって来る中で、自由に活動出来るのはせいぜい文化祭くらいまでだろう。


「まぁ、楓はそう言っているがうちはやるからにはプロを目指したいと思っている。進学しても続けられる様に出来ればきっとうちらなら出来るだろうからな」


 それぞれ考えているのだろう。

 バンドというのはやはり運の要素も強い。このメンバーの一人一人が、今すぐプロになったっておかしくないレベルなのに知名度など積み上げておかなければいけない物は沢山あるのだ。それはもちろん同じ夢を見ている人が多いからだし、だれしもがなれる訳じゃ無いというのは俺が良く分かっている。


「じゃあ、俺も……来年中に、このバンドをインディーズデビューまで持って行きます。そこまでいけば、進学しても続けられるだろうし、プロにだって近づいていくはずですから」

「そこはメジャーって言えよな!」

「そこまではまだビジョンが見えていないので……」

「インディーズなら見えてきたのか?」

「まぁ、色々とインディーズバンドの方と交流してどんな事が必要なのか分かってきましたから」

「なるほどな……」


 すると急にトナカイが襲いかかってくる。


「ちょっとゆっきー!」

「ほ、ほらサンタ。ぷ、プレゼント配りにいきますよ!」

「ちょっと楓さん。お酒は用意しちゃダメですって!」

「これはシャンメリーなのだよ」

「じゃあなんでこのトナカイはベロベロに酔ってんすか!」

「それは私にもわからないのだよ!」


 入学当初、憧れていた楓さんや文化祭でボコボコに負けた彼女達とクリスマスを迎える事になるとは思わなかった。


 人生は何があるかわからないって言うけど、チャンスやきっかけは以外な所に落ちているのだと思う。だけどそれを、気付かずに通り過ぎてしまってもダメだし、気付いても行動に繋げられなくては何も変わらない。


 結局俺は、ギタリストとしてのチャンスは掴む事は出来なかったのだけど、その代わりにこんなにも好きな人達と過ごせるチャンスは掴む事が出来た。もちろんその為に携わってくれた人、助言をくれた人、助けてくれた人には感謝しかない。


 それぞれの人が幸せに過ごせる様な世界が作れたら。作る事に携われたら俺は思い残す事は無いのだろう……。



 年が明け、また新しい一年が始まる。

 そして、また新入生が入って来る事で新しい時代へと移り変わって行く。後悔しない様に、この一瞬を生き過ぎた後で楽しかったと思える様な夢中を手に入れていきたいと思う。



──── ─── ───

 本編はこちらで終了です! 

 長い間ありがとうございました!


 今回の作品は、ガールズバンド物×ハーレムラブコメをテーマに書いてみています。書いていくうちにそれぞれのキャラが好きになったり主人公が羨ましくなったりしましたが、この作品を通じてアーティスト以外の部分にもフォーカス出来たらと思い、主人公がマネージャーという設定になりました。


 この後に、新入生が入って来る余談を入れています。当初メンバーを5人で考えていたのですが、それぞれとの話を作っていくにあたり、後輩として最後にチラッと出るだけになってしまいました。


 お嬢様キャラも出したかったんですけど……


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