第38話 エピローグ①

 ライブが終わってから俺たちはまた忙しくなった。そう言うのも俺が抜ける直前にチラシに書ける様にライブを決めていたからだ。


 それはむしろ望む所なのだが、あの日以降楓さんが隙を見てはキスして来る様になった。


「ちょっと楓さん、何でそんなすぐにキスするんですか!」

「響もすればいいのだよ。海外ではスキンシップと言ってみんな普通にしている事なのだよ」

「ここは日本ですっ! でも、私もしていいのかな……」


 そう言うと顔を赤くした神崎がモジモジしながら目を瞑り唇を向けた。


「ちょっと待て神崎。お前は生々しすぎる!」

「何で!」

「そんな畏まってスキンシップする奴はいないだろ!」


 楓さんの暴論でスキンシップならキスもOKという意味のわからない風潮が生まれている物の、神崎や玲さんは乗ろうとしても生々しくなってしまっていた。


「だがゆっきー、お前は気軽にラインを超え過ぎだ」

「さ、触っているだけですよ?」

「場所の問題だ。人間で1番デリケートな所だからな!」

「そ、それは違います。か、風間には無いですから……」

「お前もそこは触られたく無いだろ!」

「や、優しくならい、いいですよ?」

「それなら……ってなるかっ!」


 それぞれのメンバーとも以前より距離も近くなったきもする。それと同時に活動も活発になり、ライブもコンスタントにこなす様になってきた頃、ついにこの時がやってきてしまった。


 ついに冬になりクリスマスを迎える。

 クリスマスと言えば恋人達がはしゃぎ出す季節……。その中で一際はしゃいでいる奴が一人いた。


「亮太、クリスマスは誰と過ごすきなんだ?」

「誰とって、何も決まってないし普通に練習だと思うのだけど……」

「なんだ? そんな寂しいクリスマスでいいのかよ?」

「いやいや、そんな事言って拓也は予定あるのかよ?」

「ふっふっふ。ここ数日言いたくて仕方が無かったのだが、タイミングをみていたのだよ」

「なんで楓さんの真似なんだよ!」

「俺、彼女できちゃいました! いやークリスマス、クリスマス!」

「浮かれ切っているじゃねーか! 相手ってまさか?」

「そう、一緒にライブに行った子。あれからプライベートとかもよく遊ぶ様になっててさ。7回目に告白したわけよ」

「なんかの本に載ってそうな告白だな!」

「まぁ、というわけでお前も誰か誘って満喫しろよな!」


 拓也そう言ったものの、流石に誰か一人を誘うという訳には行かない。そんな事をしたら実質告白している様なものだ。


 それにクリスマスは練習あるし……いや待て、恋人とのクリスマスと言えばイブだよな? なぜかイブは綺麗に練習が無い……何やら意図的なものを感じる。俺はふと、練習の時に彼女達に探りを入れてみる事にした。


「玲さん、二十四日って練習入れないんですか?」

「二十四日? それってクリスマスイブだろ?」

「まぁ、そうですけど……何か予定あるとか?」

「うちは無いけど、あいつらにはあるんじゃねぇのか?」

「えっ……」

「さては一途だと思っていたパターンだな? そりゃあいつらはモテるからなぁ?」

「えっ、デートって事ですか?」

「それはなんとも?」


 想像もしていなかった。確かに俺は四人とも今でも俺に気があるものだと思っていたが、他に好きな人が出来ても全くおかしくは無い。いつになるかわからない恋愛に疲れ冷めてしまっていてもおかしくはない。


 とはいえ予定があるのは玲さんではないらしい。

 誰に予定があるのか探りを入れてみるか……。


「ゆっきーはクリスマスイブに予定あるのか?」

「あー、そ、そんなイベントありましたね」

「という事は予定がなさそうだな」

「い、いえ。さ、サンタのコスプレで、あ、穴の空いたゴムを配布する任務があります!」

「変なテロを起こすのは止めてください!」

「……じ、じゃあ藤原さんと使う時の為に、と、取っておきますね?」

「避妊はちゃんとしましょうね!」

「わ、分かりました! ち、ちゃんとしたのを用意しておきますね!」

「なんか納得いかないけどいいのか……」


 だが、クリスマスに夢を描いていそうな奴も居る。恋愛に対しては一番願望が強そうなのは神崎だ。その彼女が、こんな一大イベントを忘れているはずもなく……当たり前の様にモジモジとしているのが分かった。


「神崎は……クリスマスデートとかしたいんだな!」

「あ、いや。どうして私だけしたい前提できいてくるの!?」

「それはだって……したそうな感じが溢れ出しているからな」

「そんなに!?」


 となると、予定があるのは楓さんか。

 彼女の私生活は謎と言ってもいい。だが、一人暮らしという事もあり、もしかしたら親が帰って来るとかかもしれない。


「楓さんは予定があるんですよね?」

「もちろんあるのだよ?」

「やっぱり……デート……とかじゃ無いですよね?」

「何だい、私の恋愛事情を気にしているのかい?」


 意味深な言葉が気になるものの、秘密にしたいわけではなさそうだ。彼女が秘密にする時は、きっと徹底的にやる。


「折角だから、私の家でクリスマスパーティーを開こうとおもっているのだよ」

「クリスマスパーティって誰を呼ぶんですか!?」

「もちろん、君たちに決まっているのだよ。どうせ、予定なんて無いのだろう?」

「酷い決めつけですね……」

「でも、無いのだろう?」

「……無いですけど」

「なら決まりなのだよ」


 結局、誰一人として予定が無い事が分かり、バンドのメンバーでクリスマス会を開く事となった。流石はエンターテイナーというか、プレゼント交換までしっかりとやるタイムスケジュールがグループチャットで流れてくると、何か企んでいそうなクリスマスイブが始まる事となった。


 当日、彼女の家に着くと既にメンバーが入り口に集まっているのがわかる。皆まで言うな、何を企んでいるかわからない楓さんの家に一人で入る勇気は誰も無いのだ。


 玲さんが先陣を切る形でインターホンを鳴らすと、少し明るい楓さんの声が返ってくる。それが逆に怪しさを引き立たせる事になっているのだが、俺たちは覚悟を決めて彼女のマンションに入った。


 部屋の前に着くとドアが開く。タイミングを計っていたのだろうか? サンタクロースのコスプレをしている事には突っ込むつもりは無い。だが、中に入るとそこは全力で電飾が飾られた完全にクリスマス仕様の部屋だった。


「す、凄い……」

「ようこそ。そしてメリークリスマス! なのだよ!」

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