男子の方が女子より準備が遅かった話



「じゃあ着替えたら来るから!」



 サエは俺に手を振って家に帰っていった。



「ただいまー」



 家にはお母さんがいる。



「おかえり。なんか大変だったね。サエちゃんと映画行くの?」



 学校からのメールで事情を知っていたため帰っても驚いていることは無かった。



 もちろん俺もメッセージで連絡はしていたけど。



「うん、今からサアと映画見てくるよ」



「そう、気を付けてね。お昼は?」



「あぁ、フードコートで食べてこようかな」



「何の映画見に行くの?」



「分かんないサアが見たいのがあるんだって」



「ほ~ん、何だろうね」



 それから俺は制服から私服に着替えた。




「優作君、ちょっといいかな?」

 着替えている途中にドラトが現れた。



「どうかした?」



「朝の事故のことなんだけどね…」

 ドラトが何か言いかけたその時に、



「優作ー、サエちゃん来たよー!」



 一階からお母さんが俺を呼んだ。



「早いな! まだ数分じゃん!」



 よほど見たい映画なのかな。



「ドラトさん、あとでいいっすか?」



 ドラトには悪いけど、サエのことを待たせたくはない。先に約束していたから。



「あぁ、うん…」



 ドラトは少し残念そうにしながらもポンと姿を消した。



 俺が玄関へ行くとサエとお母さんが談笑していた。


「ユーちゃん、行こうか!」



 サエはワクワクした顔で言ってくる。



「早いな、俺の方が家近かったのに俺より準備早いってどういうこと⁉」



 そしてサエは高校生ながらも女性、女性の方が男性よりも準備に時間がかかるイメージがあるけど、違うのか?



「だって着替えてきただけだもん!」



「優作がゆっくりなだけだよ」



「着替えただけ? トイレとか行っとこうってならない?」



「ならない! 私トイレ遠いもん!」



「お母さんなんて、出かけるときは三回くらい行くよ⁉」



 そう言うとお母さんに、

「本人の目の前で言うんじゃありません!」

 と笑って言われた。



 でも目の圧はすごかった。






「出発!」



 サエが家に迎えに来てくれて、俺たちは映画館へ出発した。



 映画館の最寄り駅は学校とは逆の方向へ二駅。



 途中、田んぼが広がる風景の中を電車が進んで行く。



 俺はここの景色が好きだ。今は冬で寂しいが、春から秋にかけては苗が育っていく様子が鮮やかできれいなんだ。



「先に映画見てからお昼でいい?」




「いいよ」


 よっぽど今日このタイミングで見に行けるのが嬉しいのかサエは終始俺の隣で楽しみにしているかを延々と語っていた。






 映画館につくとサエは嬉しそうに息を吸った。映画館は平日の午前中でシンとするほど空いていた。



「この映画見たかったんだぁ」



 サエが見たい映画は外国のアクション映画だった。

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