ドラトの頼み



「今日は長い一日だったなぁ」


「さて、今日はお疲れ様、ユーサク君」

 ドラトが胸の上に現れる。




「あぁ、こりゃどうも」



「君に話しておきたいことがあってね」



「何だよ、改まって」



「今日あの怪物をこの手帳に収めたね」



 ドラトは手帳をどこからか取り出した。



「そうだね」



「それを今後もお願いしたい」



「はい?」



「この世界に散らばった彼らをこの手帳に集めたいんだよ」



「でもこれらって人間にくっついて成長するんだろ? 大変じゃん!」



 今日みたいなことを今後もしなければならないなんてごめんだ。



 命がいくつあっても足りたもんじゃない!





「まぁまぁ、そんな不安そうな顔しないで」

 ドラトは俺をなだめるように穏やかに話す。



「この間生きてはいけないと表現したけど、正確にはそうじゃない彼らは単体でも生存はできるんだ」



「そうなの?」



「ただ人の手を借りれば力を発揮できるってこと。だから人間と同化していない者は楽に捕まえられるはず。そしてむしろそういうモノのほうが圧倒的に多いはずだよ」



「なるほど。ということは単体でいるやつは力が弱いってことか」




「そういうこと。最も『生きている』という表現が人間とは違うということを頭に入れておいてもらいたい。彼らは生物ではないからね、同化した人に影響を与え、影響を受ける」




 俺にはよくわからない。ここで質問を重ねても理解できないことが増えるだけだろうから何も言わなかった。



「改めてお願いしよう」




 ドラトは言葉通り改まって俺を見た。




「君にはこの手帳に集めてもらいたい。そして君は力を持つ。これは普通の人が生きていても持つことがない力だ。君はこれからなんにでもなれる」



 ドラトの目の奥が光る。



 また突拍子もないことを言い始めた。



「王にも、神にさえもね」



「そんなこと…、そんな話」





 理解ができない話だ。



 信じるには大きすぎる話だ。



 それでも嘘だと思えないのは自分の胸の中にある熱さ。



「まだ熱を持っている」



 この熱さが嫌でも現実だと知らせてくる。



(俺の運命はあの時に決まってしまったのだろうか)



 王、神…、そんなものに興味なんてない。



 ドラトは俺が積極的になると思ってそんな言葉を出したのだろうか。



「もし俺が断ったら?」



「今日の彼を見ただろう? ああいうのが町に溢れかえるかもしれない」



 ドラトは特に心配するような様子もなくそう言った。



 ドラトはこの手帳の中身を埋めることに興味がありそうだ。



 王や神になる気はさらさらないが、怪物が町に溢れるのはさすがに困る。



「やるしかないか」



「そう言ってくれると思ってたよ」



 ドラトはいつも通り淡々と話す。



「心にもないでしょ」



「そんなことないよ、君の体は一番心配だ」



「ホントに?」



「うん、君の命が絶えれば、私も生きていけないからね」



「やっぱ心にもないこと言う奴」



「まぁ、頼むよ。ユーサク君」



「はいよ~」



 こんな命を懸けるようなことはごめんだと思うも、あんなこと二度もないだろうというなぜか楽観的な気持ちがあった。






 人は何かとふれあい、まじりあう。そして変わっていく。昨日までの自分とは違う人間になる。




 その変化は必ずしも自分で認識できるわけじゃない。




 しかしこのとき俺は、すでに大きな何かの渦に巻き込まれていることに気がついていなかった。



 重大さに気づけていなかった。





 











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