事後
男の体は火傷などから傷ついていた。
「早く病院へ連れて行かないと助からなくなる」
男の体を持ち上げた。
不思議と力をあまり入れずにヒョイと持ち上げる事ができた。
男の体は少し熱を帯びている。
「意外と軽いな」
「優作君、連れていくのかい?」
「あぁ、病院へ連れて行かないと」
俺がそう言うと、ドラトは不思議そうに目を丸くし、羽をパタパタと動かした。
「我々を襲ってきたのにかい?」
「それでも、一番傷ついてるのはこの人だろうから」
確かにサイレンは近づいてきている。
俺はさっきと同じように火の中を掛けていく。
男を抱えていても、特に気にはならなかった。
「でもこの辺まで来れば…大丈夫だろ」
いつの間にか公園の端まで来ていたようだ。公園中央を見ると赤く炎がもくもくと煙を吐いていた。
「誰にも被害がないといいけど」
「他は火が酷くなかったし、恐らく大丈夫でしょ」
ドラトが肩にちょこんと現れる。
「なら良いけど」
振り返るとサイレンの「主」が到着していた。
「皆さん、道を開けてください」
武装をした逞しい人達がドカドカと人混みをかき分けていく。
「あ、消防車だったのか」
考えてみれば納得がいく。普通の人から見れば火事が起きたという事実から消防に
まず連絡を入れるだろう。
「あのすみません」
俺は消防隊員の一人へ声をかけた。
「この人、公園の中で倒れていたんです、怪我もしてるみたいだし。お願いします」
俺は両手に抱えた男を消防士へ渡した。
消防士は男を受け取ると少し体勢を崩しながら男を地面に置き、状態を確認し始めた。
「ありがとう。君が一人で抱えてきたのかい? 大変だったろう?」
「いえ、大丈夫です。それよりこの人は大丈夫ですか?」
「まだわからない。詳しい事は病院で診てもらわないことには…、だが、息はあるからそこまで酷くないかもしれない」
「そうですか。良かった」
安堵のため息を吐く。
そこでハッと気がついた。
「…高校…おもいっきり遅刻だよ」
腕時計に目をやれば、すっかり始業時刻を過ぎ、そろそろ三時間目も終わり頃の時間である。
「携帯に、メールが来てるな。サアからか…『来てないの? 具合悪い?』何も言ってないからなぁ」
学校にも何も言ってないことに気がついた。
「無断欠席だよ。怒られるなぁ〜こりゃ。制服も少し焼けちゃって…何があったんだっての!」
「お、ノリツッコミ」
ドラトは俺の反応が面白かったのか羽を大きくパタパタさせた。
そこで救急車が到着し、救命士がドタバタと忙しなくストレッチャーなどを運びながらやってきた。
男が載せられ、連れて行かれる。
消防士が俺に声をかけてきた。
「君も救急車で病院へ行きなさい」
「へ?」
「怪我をしているじゃないか。それにあの男の近くにいたんだろう?とすると煙などを吸っている可能性がある。一度診てもらった方がいい」
「いや、でも俺高校が…」
俺の言葉は消防士の言葉によって遮られ、
「いやいいから、連絡は病院がしてくれるさ。とにかく行きなさい」
と、救急車へ連れ込まれた。
「…これ、ヤバいかな? また心配させるかな」
そう呟くと、ドラトは、
「そうかもね」
一言、俺だけに聞こえるように呟いた。
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