事件
翌日のこと、朝起きて居間に朝ごはんを食べにいくと両親二人がテレビニュースに釘付けになっていた。
「怖いねぇ」
「なんかあったの?」
「あぁ、優作。この近くで放火があったんだってさ。今テレビでやってんの」
放火? またこの辺であったのか。
「どこであったの?」
「ここから一駅先のところに駐車してあった車だって。で、ガソリンに引火して爆発したんだと」
お父さんはコーヒーを口にした。
「怪我した人とかは?」
「いないって、人気のないところだったみたいだし」
俺はそれを聞いて安心した。
「でも学校に近くて心配だなぁ」
「そーねー。その一駅先だもんねぇ」
お母さんが洗濯物を干しながら言う。
「まぁ、気をつけて行ってこいよ。昼間は大丈夫だと思うけどな」
「はーい」
家のインターホンが鳴って、家を出る。サエが迎えに来た。
「おはよう。ユーちゃん」
「おはよう」
駅に向かって歩き出す。
「ねぇ、今日のニュース見た?」
サエに尋ねてみる。
「見た見た! 火事のやつでしょ?」
「学校近くでね、心配だよねぇ」
「最近多いよねー、この間の公園の放火もあってさー。」
「あ!そうだそうだ。言ってたよね」
「あの公園も事件の近くなんだよね」
「そっか…。じゃあ犯人も同じかもね」
「ねー。早く捕まれば良いのにね」
昼休みにサエと弁当を屋上で食べて教室へ戻ろうとした時だった。
「優作くん、ちょっといいかな?」
「え? ドラト?」
ドラトが俺の制服のジャケットの背中側からヒョコッと現れた。
「おぉ! 初めてじゃない?ドラトが外で顔出すの」
「まぁまぁ、そんなことは置いといて。ちょっといいかな?」
「どーせ、ダメと言っても喋るんでしょ?」
「うんまぁね」
ドラトがもぞもぞと背中で動く。
少々くすぐったい。
「今朝のニュースにあった火事の現場に行ってみよう、放課後に」
「え? なんで?」
「いいからいいから」
「また教えてくれんのかいな。」
「ユーちゃん! 帰らないの?」
サエがドアの向こうからピョコっと顔を出す。(こっちもか)
「ほら早く行かないと授業始まるよ」
「あんたが止めたんだよ!」
ドラトがポンと姿を消した。
「ユーちゃん何ボソボソ言ってたの?」
サエが眉にしわを寄せて訊いてくる。
「え? なんでもないよ」
フーン、と疑いの目を俺に向けながら返事をした。俺は目を泳がすしかなかった。
「今日の放課後さ、火事があったっていうところ行ってみない?」
我ながら幼馴染の女性を事件があった現場に連れていくのはどうかと思うが、『予定があるから先に帰っていていいよ』などどサエに嘘をついてもバレるのでこう言った方が楽だ。
サエは聞いて目をキラキラとさせた。
「うん! 行ってみよう!」
「全くミーハーなんだからな…」
(まぁ、今の文脈だと俺もそうか…。)
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