指輪持ってる?



「ね! そんなことよりもさ、三学期になったら開校記念日で平日休みになるじゃない?」

 パァと表情を明るくした。



(サアのコロコロと表情が変わるのは、いつまでたっても慣れないな。)



 そんなことを思いながら、

「うん」

 と返事した。



「その日さ、テーマパーク行こ!」



目をキラキラさせるもんだから、何を言いだすかと思えば、毎回サエには振り回されるが、

「うーん、寒いだろうな。」

 とやんわりと断ってみた。



「えー、いいじゃん!行こうよ。ずっと行きたいと思ってるんだよね」



 俺に特に目もくれず言った。



「海沿いだからさ、あそこ。さっむいよ!」



 そういうとサエはまたほおを膨らませる。



「私の機嫌を直すために行ってください!」


 この顔を見ると、いつも俺は折れて要求を飲んでしまう。しかし、

(毎回振り回されるからな…寒いのは苦手だし。もしやこれを言うタイミングをはかってたのか!)



「じゃさ! 今度のテストで全教科私が勝ったら、行くってことで、決定ね!」



「いや、それもう絶対行くじゃん!」



「決定は決定です!」



 サエに勝手に決められた…こうなるとサエは絶対譲らない。頑固な子である。で



 すっかり機嫌が直った(元から計算して機嫌悪く見せた?)サエを見ると、「いいか。機嫌直ったし」といった気なった。



 …でも、都合のいい男になっているような、俺。



 心の中でため息をついた。女子ってみんなこうなのだろうか。俺にはこの天真爛漫さ?がわからない。しかしどこか心地よさも感じる自分もいたりする。(Mか?俺は)



 とりあえず俺はサエとテーマパークに行くことがほぼ確定したと言っても、過言ではない。



(妙な気はこれだったわけね…とほほ)





 家にて、帰宅後母親が何やら探し物をしていた。



「ただいまー」



「あ、お帰り」



「なんか探してるの?」



「ん? イヤリングがね、片方ないのよ」



 そう言って母はキョロキョロとソファーの下を見たりしている。



「探す?」



「あぁ、いいわ。別に気にしないで。いつか見つかるでしょ」



 そう言うとソファーでくつろぎ始めた。



 俺は自分の部屋に戻った。



 それと同時にポン、とドラトが姿を現した。



「やぁ、優作くん」



「やぁ」



「君の母上が何やら探し物をしている様だったね」



 …母上って…、まぁいいけど。



「うん、イヤリングが無いんだって」



「なるほど」



 ドラトは羽をパタパタさせた。



「どうしたの?」



「…優作くん、私が渡した手帳を今持っているかい?」



 ドラトは唐突にそんなことを言いだした。





「うん、これね」



俺は制服の内ポケットからあの手帳を取り出した。ドラトにはいつも持っていてくれと言われてたんだ。



「それそれ。その一ページ目を開いて」



俺は言われた通りに手帳を開く。



「…で?」



「あの指輪を左手の薬指にはめて」



俺は促されるまま、指輪をはめる、左手の薬指に。



「…で?」



「…」



ドラトはジッと目を見開いてこちらを見てきた。



「…何さ?」





突然それは始まった。



「!?」



ドクン!と胸が強く打たれた。咄嗟に左胸をおさえる。



「カハッ! ハァハァ!」



治らない…呼吸も浅くなる。息を吸うたびに痛みが増す。意識の遠のいて行くのを感じる。



「グゥ…。ド…ラ…ト…」



目の前が暗くなっていく。



あぁ…これは二度目だなぁ… 。






完全に俺は闇に捕らわれた。  


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