その名はドラト
右肩に何か違和感を感じて、肩を見る。
するとそこには赤いフサフサの丸い胴体から短い手足が二本と小さな羽根、それに爬虫類の顔をマスコット風にしたような可愛い生物が「そこ」にいた。
「やぁ。この姿で会うのは初めてだね」
「……ダレ……?」
「夢でもあったじゃないのさ。挨拶に二つのアイテムをプレゼントしたでしょ?」
その「何か」はクリッと目線を向ける。
「いや、そういうことではなくてですね……どういうこと?」
「君が看板でぶつかって倒れた時、あの時君の体に同居させてもらったんだ」
淡々と説明をされる。
「私は生き残るために君の中に入るしかなかった。そして今、君と私は命、体を共有してお互いに共存関係にあるんだ。おかげで多少の自我に芽生えるまでに成長できた。大体の目的は達成された。感謝する」
「何か」が頭を下げた。
礼をしたつもりなのか……?
妙に人間らしいところに驚く。
「……じゃあ、出て行ってもらっていいですかねー」
「それはできないんだ。ここまでの成長で分離はできるはずだったが、分離したら私は生きていけないようだ。それに君も私と離れたらマズイよ」
「何で?」
俺は今された話を聞き返すので精一杯だ、何が目の前で起こっているのか。
「あの事故で君の体は相当なダメージを受けていた。私が君と同居することで回復さ
せた、いや正確には、回復『させている』途中だ、今私が離れたら、君はまた病院に逆戻りさ。長く入院することかもね」
淡々と答える声に、急に不安になる。
「そんな……」
「そんなに悲観しないでほしい。ただで住まわしてもらおうとは思ってないから、オプションを用意してある。もう感じていることもあるじゃないかな、例えば、力がみなぎっているとか」
俺はハッとした。
「そういえば、病院に運ばれた後の方が調子がいい気がする」
「そうだろう、そうだろう」
「それ」がウンウンと頷く。
「……確かに、感覚も鋭い気がするし……」
「うん、そうでしょ」
目をクリッと向けられる。
「まぁそんなに役に立つもんかね。離れられたら死なれるのも困るし、病院に逆戻りも嫌だからなぁ。しばらくこのままなのもしょうがないか」
「そう言ってくれるとありがたい」
「名前はあるの?」
「ないね。決めてくれる?」
シレッというその姿に、
(あんまり興味ないのかな?)
そう思うも、考えてみる。
「うーん、トカゲー……」
「ちなみに竜なんだけどね、イメージは」
「竜、ドラゴン、トカゲ……。じゃあ、ドラトっていうのは?」
「何でもいいさ」
窓の外の景色を見ながら返答された。
「なら、ドラトで決定ね」
「うん」
俺はドラトと一心同体になっていた。
そう告げると、俺の肩の上でドラトはゴロゴロし始めた。
「……でもさ、今俺の体を離れてるじゃん?」
ふと不思議に思ったことを訊いてみる。
「君の近くならば少々離れても大丈夫なんだ。でも今これ以上離れると、危ない」
やはり淡々と答える。
「いやいや、じゃああんまり変なことしないでよ?」
「わかってるさ、無茶をするのは主義ではないからね」
その時部屋のドアの外から、
「優作?誰かと話しているの?」
お母さんに聞かれていたらしい。
するとドラトが、
「私のことは内緒にするんだ」
というので、
「あぁ、電話してるの、今!」
と、とっさに返した。
「サアちゃんと?」
「……そうそうサアと!」
ふーん、とさして気にする様子もなくお母さんは階段を降りていった。
「はぁ」
とため息をついたのはドラト。
「こっちがため息つきたいよ」
「今日は疲れたから、もう寝ることにする。」
ドラトはあくびをした。
「どこで寝るのさ?」
「君の中でね」
ドラトは眠そうな目をする。
「あ! でもさ、命を共有してるってことは俺の思っていることも……」
俺が何を訊こうとしているのかを察したのか、
「あぁ、それは大丈夫。君個人の思っていることは私には分からない」
「あぁ、そうなの?」
「うん」
「ならいいや」
ふう、と息をつく。
しかし、ドラトが
「でも、お互いは繋がっているから、呼びかけてくれれば反応できるよ」
「あぁ、そうなの?」
うん、と言ってドラトはまたあくびをした。
「疲れたから寝る。おやすみー」
ポン、とドラトは姿を消した。
いつもこの静けさのはずだが、静かになった部屋で一人呟く。
「はぁ、俺も今日、なんかスゲー疲れた」
このようにして、俺は未確認生物と命を共有する、共生をすることになった―――。
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