登場はいつも劇的な展開なわけじゃない
俺はフェンスまで行って、影になっているところを見た。しかしその気配のもとは見つからなかった。
「フェンスの向こうは何もないというか、向こう側に行けば落ちちゃうしなぁ」
サエが近づいてくる。
「何かあった?」
「何も…。勘違いだったみたい?」
俺は首をひねる。
「も〜、どうしちゃったのよ! 今日は!」
「う〜ん…どうしたんでしょう…」
結構真面目に考え込んでいる俺に、
「あの時頭打って、おかしくなっちゃたんじゃないのー?」
サエは目をクリッとさせて意地悪そうに言ってくる。
「あぁ! またそうやってイジってくる。病院とか今朝はそんな顔してなかったのに!」
俺は、ツッコミを入れる。
「良くなってしまえば、笑い話にもできるの!」
サエはニヒヒ、と笑った。そして、
「笑い話になるの、全て過ぎれば。…無事ならね」
と、真面目な顔を最後に見せたので、内心少しどきりとした。
そんなこともあり、俺はあっという間にその事を忘れた。
それから数週間くらい経った事だと思う。その間俺はあの不思議な感覚を感じることなく、穏やかに、いつもと同じ日常を過ごした。
「じゃあ、明日も遅れずに学校に来て下さい。解散!」
帰りのホームルームを終え、帰り仕度をする。
(今日もサアは部活だから一人だな、帰り)
いつもの駅までの道を、すたすたと、歩く。
いつもと同じ住宅地の家々、季節の変わり目で葉の色を赤や黄に染め始めた木々と高いところにでき始めた雲など小さな違いはあれど、いつもと変わらぬ道を、無心で、ただ歩いて帰る、ただそれだけ、
…のはずだった。
不意にまた「視線」と「ゾッ」とを背中で感じた、気がした。
「あ、まただ。…でも…」
後ろを振り返っても、誰もいない。
しかし、背中に感じるこの感覚、それが俺の不安を掻き立てる。俺は足早にその場から去った。
「ただいまー」
帰宅後、自分のベッドに身を投げる。
いつもと変わらない景色にみえた、しかし、
「…なんか、やっぱ変だよな……」
深くため息をつく。
「…さて、そろそろいいかな? 優作君」
「誰⁉」
ベッドから起き上がってあたりを見回すも、あるのは見慣れた自分のインテリアばかり。
「空耳か? やっぱり頭打っておかしくなったのかな」
頭をそっと撫でる。
「…空耳じゃないし、頭がおかしくなったわけじゃないよ」
やはり気のせいじゃない。
「…ただ打ったからこその状況になっている。怪我の功名ってやつかな、ある意味ね」
「どこだ! どこから話しているんだ?」
「ここさ」
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