退院
翌日の朝のこと、いつもよりかなり早起きしてしまった。
「枕変わると眠れないんだよなー。あー、今日も良い天気だ」
朝の回診では先生からいくつかの問診後、帰宅許可を与えられ、病院を後にした。
市立病院から自宅までは歩いて約三十分といったところだ、天気、気候がいいから気持ちよく帰れる。昨晩入院したのが嘘のように体調が良い。
今ならすごい速く走れる気がする。
入院する前よりも今のほうがずっと体調が良い。
「いやいや、それはそうじゃないと困るか」
一人で冗談を言うほど気持ちは晴れやかだった。
「ただいまー」
「おかえり。すぐ帰ってこれて良かったね。なんか飲む?」
お母さんはいつも通りの様子で聞いてくる。
息子が無事だったということで特に心配などはなくなったのだろう。
「アイスコーヒー飲もうかな」
「牛乳入れる?」
しかし今日は珍しく飲み物を用意してくれた。
今日は甘えることにしよう。
「うん、お願い」
お母さんからグラスに入ったアイスコーヒーを受け取り、二階の自分の部屋に戻った。
「はぁ、やっぱ自分の部屋が一番だよ」
アイスコーヒーを机に置いて、とりあえず体をベッドに投げた。そしておもむろにポケットからあの手帳と指輪を取り出した。
「やっぱりあの夢はただの夢だよなー」
二つの謎の小物をベッドの傍に置いた。
俺は一日欠席しただけで、次の日から登校した。
家を出るとサエがすでに来ていた。
サエには前日に「明日から学校いける」というメッセージを送っていたから、迎えに来てくれたようだ。
「おはよう、ユーちゃん」
いつものように笑っているが、少し疲れているように見える。
「おはよう」
「じゃ、行こ!」
俺たちは歩き出す。
「良かったね、今日から行けることになって」
「あぁ、心配かけたかな」
「別にー、昨日は気楽に登校できたよー。一人だったから」
ふざけて笑う横顔もやっぱりいつもと違った。
(やっぱり、かなり心配かけちゃったか)
「そうだ!今日の体育どうするの?今日あるよね?」
「あ、そっか。大丈夫だよ。出来る」
「無理はしないようにね。バレーだよ、ユーちゃん苦手でしょ!」
サエは俺の顔を覗き込んで言う。
「バレーはなぁ、一回もサーブ入った事ないんだよなー」
「高いのにね、背!」
サエは面白そうにいじってくる。
「なんでかね? 恵まれてんのにね」
「勿体ないよねー、ホント」
サエはいつものように楽しそうに笑った。
(ちょっと安心させられたか)
「今日は期待してるから! サーブとスパイク、見せてねー」
「はいはい、頑張りますよー」
俺は軽い返事をした。
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