夢か…現実か



『今俺はどこにいるんだ? 体も動かないし、もしかして、死ぬのかな…。死って案外夢の中みたいだ』



 俺の意識はどこかかなたを漂っているようだった。



 宇宙を漂う気持ちはこんなだろうか。



 どこから来て、どこへ行くのか。



 不思議に不安感はない、むしろどこかフワフワとした心地よさすら覚える。




『やぁ、ここは君の意識のとても深いところだ、夢とも言えるかもしれないね。君の中に少しの間住まわせてもらうことになったから、挨拶だけでもしておこうと思う』


 どこからか声が響いてくる。



『何だ、君は?』



『まぁいいさ、また会うことになるだろうから、その時に。あっ、ズボンのポケットの中身は捨てないでね』



 そう言われると、俺はどこかへ吸い込まれていくような気がした。









 目が覚めたのは柔らかいものの上であり、自分が横になった姿勢でいるのがわかった。




「寝てたのか…」



  しかし妙にはっきりとした夢だった。



目の前に三人、左側にはサエ、右側には俺の両親がいた。



「あ、目が覚めたか」

  お父さんが声を上げた。



「優作?」



「ユーちゃん!」



 お母さん、サエと次々に俺の名を呼んだ。



「俺、どうしたんだっけ?」



「落ちてきた看板から私を庇ってくれたんだよ。でもそれで自分の体をぶつけちゃって気を失ったの」



「サエちゃんが救急車を呼んでくれて、この市立病院に搬送されたの。でも良かったわ、どこも異常はないって。災難だったわねぇ」



お母さんもサエも安堵の表情をしているが、目元が少し赤い。自分の息子、幼馴染が倒れて病院に運ばれて、今まで寝ていたのだから、色々考えが巡っていただろう。



 するとお父さんが続けて言う。



「先生は特に異常は無いけど、今夜はとりあえず念のため入院してくれってさ」



  お父さんは冷静であった。



「そっか。わかった」



しばらく他愛ない話をして三人は帰っていった。



一人になった夕方、俺はさっきの夢を思い出した。



「そういえばポケットの中身は捨てないでって言ってたよな。まさかとは思うけど…」



ゆっくりと左手をズボンの左ポケットにしのばした。



  すると…



「ん? 何かある」



  取り出してみると、二つ身に覚えがないものが入っていた。



  一つは手帳だった、それもジャケットの内ポケットに入るほどのサイズのコンパクトな手帳で新品と思われるものだった。



 何も書かれていない白紙のページが続いている。



もう一つは指輪だった。指輪には黄緑色の宝石が取り付けられていた。しかし宝石は磨かれてなく、原石そのままであるといった感じだ。それなのに宝石は不思議な輝きを持っていた。



「あれは夢じゃなかったのか…?」

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