高校生とミミズ
「俺もスポーツなんか始めようかな」
手櫛で髪を梳かしながら呟いた。
「いいじゃん! サッカー始めなよ」
「練習相手欲しいだけでしょ」
「それもある! 近くに相手いないし」
「相変わらず色気のない生活してんなぁ。モテんぞ!」
「いいの、別にモテなくて」
「しっかりせぇよ。年頃女子」
大した出来事もなくいつも通りに高校の最寄駅に着いた。
「将来はやっぱりサッカー関係?」
そういえば今まで将来の話を聞いたことがなくて、駅の改札を定期で出た後に聞いてみた。
「んー、別にそういうわけじゃなくていいかなー。趣味で続けたいし、第一サッカーで食べていけるほど上手くないし」
「そっか」
「ユーちゃんは?」
「俺? 特に何もないんだよなー」
「ユーちゃん、ちっちゃい頃はヒーローになりたいって言ってたよね」
「言ってた! ウルトラマンが好きだからなぁ」
「人を助ける仕事とか?」
「あんまりピンとくる仕事がないんだよ」
「ふーん、お互いまだまだ考えないと。進路のこともあるし」
「そうだなぁ」
進路か、サエはもう考えてるんだ、この間高校に入ったと思ったのに。
(ん?)
俺はその時ふと道に気になりものを見つけた。寄って行ってみる。
「どうしたの?」
それはミミズだった、ミミズが道路の上を一生懸命這っていた。
(このままだと…なんとかなんとかならないかな)
俺は近くに落ちていた木の葉を拾った。
「ミミズがいてさ、ほら。ここはコンクリの上だから、このままだと太陽が昇ったら干からびちゃうかなって」
木の葉にミミズが乗るように葉を動かした。
サエはそれをじっと後ろから見て、ため息をついていた。
「全く、変なもの見つけるんだからー」
「お、乗った。えーと土のあるところは…あ! あそこがいいかも、あの木の下」
俺はミミズを落とさないようにゆっくりと、しかし急いでそこまで運び、ミミズを土の上に葉っぱごと置いた。ミミズはもぞもぞとしばらく葉の上で動いていたが、やがて土の方へニョロニョロと這って行った。
「これでよし! と」
「どうして助けたの? あのミミズを」
「どうしてって、ん〜…」
そんなことを訊かれても、返答に困る。
「ユーちゃん、ホントに変わらないね」
サエはなぜか微笑んだ。
「ん? 何が?」
「そういう何かを見つけるの、昔からそうだったじゃん?」
「そうだったっけ?」
「うん、昔からそういう生き物見つけてはどこかに運んで助けたりしてたよ」
「でも蚊とかはパン! って叩くけどね」
「ふふ、でも不思議、なんであのミミズを助けようと思ったの? 教えて」
「んー、わかんない!」
本当にわからなかった、自分がどうしてそうしたのか、考えたこともなかった。
「まぁいいや。その方がユーちゃんらしいし! 早く行こ、学校遅れちゃう」
そんなことを考えていた俺にサエが声をかけた。
理由はわからなかったが、俺は爽やかな風を体いっぱいに感じた。土の香りがした。
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