祝福の音
久しぶりに二人の休日がかぶったから、帰省がてら実家に顔を出すことにした。朝起きてから眞佐樹はずっと落ち着かない様子で、最寄りの駅についてからさらにそれが加速している。眞佐樹がこんなにそわそわしているのは珍しい。
「なにそわそわしてんだよ」
「だって、久しぶりの柔の家だよ!? 俺と柔が一緒に住んでること、柔のご両親は良く思ってないかもしれないし……」
「……ああ、そんなことか。もうかあちゃんととうちゃんには眞佐樹と付き合ってること言ってるから、心配すんな」
その言葉を聞いて眞佐樹があんぐりと口を開ける。何も言えずに顔色を目まぐるしく変える眞佐樹が面白くて声をあげて笑う。
「じゅう! 笑い事じゃないって! 俺ずっと悩んでたのに……」
「すまんすまん、言うの忘れてた。最初はびっくりしてたけど、俺が眞佐樹のこと好きなのうすうす察してたみたいで『たまには顔見せてよ』ぐらいしか言ってなかったぞ」
「えぇ……。俺の悩んでた時間、返して……」
「だから大丈夫だ。俺と眞佐樹の関係は家族公認だし、なんなら祝福してくれてるぞ」
「祝福」の言葉に安堵したのか、眞佐樹が少し落ち着きを取り戻す。嬉しそうな、むずがゆそうなそんな表情を眞佐樹が浮かべていて俺もほっとした。
「まあ、あんまり人に執着しない俺が眞佐樹ばっかり家に連れてきてた時点でお見通しだったと思うけどな」
「え! あれ俺だけだったの?」
「そうだよ。眞佐樹と話したくて、一緒にメシが食いたくて呼んでた」
「柔は友達多いから、俺もそのうちの一人だと思ってた……。もしかして俺、めちゃくちゃ愛されてる?」
「まあな」
「はあ……。柔には敵わないなあ……」
「俺はその時は告白する気もなかったし、眞佐樹の隣にいられたらいいかなくらいに思ってたけど、まさか想いが叶うとはな」
そう軽く言った俺に対して、眞佐樹は神妙な顔をしていた。あ、これは良くない方に考えてるな。
「性別とか、生い立ちとか。色々考えることはあったよ。素敵な家庭で育った柔を、こちらに巻き込みたくはなかった」
「……うん」
「でもさ、いつのまにか柔のこと、一人のひととして好きになっちゃってたんだよね。どれだけ心の中で言い訳を並べても誤魔化せなかった。柔を誰にも取られたくなかった。もう、離してあげられない。ごめんね」
眞佐樹がまるで自分のせいと言わんばかりに一人哀しそうに笑うから、俺は眞佐樹に強めの肩パンをお見舞いした。
「いたっ!」
「なに謝ってんだよ。自分ばっか好きみたいなこと言いやがって。俺の気持ちは無視か」
「でも……」
「お前が俺を巻き込んだんじゃなくて、俺がお前のところに飛び込んでいったの。俺が待ってるだけのお姫様に見えるか?」
「……ううん」
「確かに告白してきたのは眞佐樹からで、それを受けたのは俺。でも俺は眞佐樹のこと、とっくに好きだったし眞佐樹が伸ばしてくれた手を取る以外の選択肢なんて眼中になかった。不安なら今ここで、告白してやろうか?」
「……いや、遠慮しとく。柔はいつだって俺に好きだって伝えてくれてたのに、こんなこと言ってごめんね」
「気にすんな。人生かけてお前を愛すから、いつか受け入れられるようになればいい。思考の癖とか習慣とか、そんな簡単に変わるものじゃないだろ」
「ははっ。柔はいつだってかっこいいなあ」
「おう」
その後は他愛のない話をつらつらとしながら歩いて、十数分もすると俺の家に着いた。インターホンを押すときになってまた眞佐樹はそわそわしていたけれど、ドアを開けたかあちゃんが笑顔で「眞佐樹くん、いらっしゃい!」といつもの調子で迎えてくれたからほっとしたような表情になった。
「お昼ごはん、食べてきた?」
「いや、俺も眞佐樹もまだ食べてない」
「よかった! 多めにお昼ごはん作っちゃったから食べていって」
「かあちゃんありがと」
「ありがとうございます」
手を洗ってリビングに行くと、テーブルにはすでにごはんが並んでいた。ピラフだろうか、バターの香りが食欲をそそる。
「たくさん作ったから遠慮なく食べてね」
「じゃあ、いただきます」
「いただきます!」
もぐもぐと二人でピラフを
「やっぱかあちゃんのメシはうまいな」
「眞佐樹のごはんと同じ、あったかい味がする」
ピラフを口いっぱい頬張って幸せそうににこにこしている眞佐樹を見てかあちゃんが嬉しそうな笑みを浮かべていた。わかる、眞佐樹の食べっぷりを見ると嬉しくなるよな。
「かあちゃん、このピラフのレシピ教えてくんねえ?」
「もちろん。炊飯器で炊くだけだから簡単よ。具材を先に炒めておくのがおいしくするコツ。あとでレシピ送っとくわね」
「ありがと。眞佐樹、家でも食べられるぞ」
「やったあ! お母さん、すごくおいしいです」
そう眞佐樹がとびきりの笑顔と共に告げるものだから、かあちゃんは少し顔を赤くしていた。やはりかあちゃんも眞佐樹の顔が好きらしい。血は争えないな。
和やかに談笑しながらピラフを食べ進める。お皿にこんもりと盛られていたピラフは綺麗になくなっていた。
「ごちそうさまでした!」
「ごちそうさま」
「はい、よく食べました。この後どうしてく?」
「今日は俺も眞佐樹も一日空いてるから、買い物でも手伝おうか?」
「ほんと? 一人だと買える量に限界があるから助かる。眞佐樹くんもいい?」
「はい、もちろんです」
「じゃあ、駅前の大きなスーパーに行くか」
「そうね、そうしてくれると助かる。せっかくの休日なのにごめんなさいね」
「気にしないでください。少しでもお役に立てたら嬉しいので」
「そうだよ。何か困ったことあればいつでも呼んで」
「……ありがとう。二人とも頼もしくなったわね」
かあちゃんがしみじみと言うものだから、眞佐樹と俺は顔を見合わせて笑った。なんでもない休日の、幸せなひと時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます