はんぶんこ
あの一件から、俺と眞佐樹はよく一緒にいるようになった。
吉田は責任感の強い口が堅いやつだったからそれが幸いして、眞佐樹のことは学校内に広まることなく、静かに決着がついた。ある意味もみ消されたともいえる状態に俺も思うことがなかったわけではないけれど、眞佐樹がしっかり行政のサポートを受けて生活できるようになってとりあえず一安心だった。
俺と話して一緒に行動していくうちに、徐々に眞佐樹の表情は柔らかくなり、生来の明るい性格が垣間見えるようになった。クラスメイトにも少しずつ関われるようになって、眞佐樹はゆっくりとクラスに溶け込んでいった。
ただ致命的な問題があった。眞佐樹の成績だ。
小学校には通っていたものの、眞佐樹の置かれていた環境は劣悪で勉強を落ち着いてする余裕なんてなかったし、満足にごはんを食べられていない状態がずっと続いていたから体も細く、体調を崩しやすかった。それに加えて先の一件で眞佐樹が保護された孤児院は、どうしても手がかかる小さい子に職員さんは時間を割かなければならず、眞佐樹のことは後回しになりがちだった。
そんな眞佐樹を俺は放っておくことができなくて、眞佐樹をよく家に招いた。放課後俺の家に集まっては先生におすすめしてもらったドリルを使って眞佐樹に勉強を教えた。眞佐樹は地頭がよくて、今までの遅れを取り戻すかのようにどんどん知識を吸収していった。先生たちのサポートもあったおかげで眞佐樹はなんとか授業についていけるようになった。
体の方も安心して眠れる場所に身を置いて、眞佐樹が家に来るたびにせっせとご飯を作っては食べさしていた世話焼きの俺のかあちゃんの行動も幸いしたのか瘦せぎすだった眞佐樹の体は健康体に近づいていった。
「おなかすいたなあ……」
「給食食べたばっかだろ」
「最近めちゃくちゃおなか空くんだよね。成長期かな?」
「身長も伸びたしな。あ、そうだ。これやるよ」
俺はカバンをごそごそ漁って目当てのものを取り出す。かあちゃんが体育のあとはおなかが空くだろうからと持たせてくれたあんぱんだ。
「俺も食べたいからはんぶんこするか」
そう言ってあんぱんをはんぶんこにして差し出すと、眞佐樹は不思議そうな顔をした。
「え? なんで?」
「なんでってなにがだ?」
「なんで半分にしたの? そのパンは柔のものでしょ?」
眞佐樹は戸惑っている。もしかして、眞佐樹ははんぶんこしたことがないのか。
「あ、えーっと。俺が二人で食べたいなって思ったから、だからはんぶんこした」
「柔のものなのに、いいの?」
「おう。はんぶんこするとなんかおいしく感じねえ? 一緒のもの食べるの俺は好きだな」
おそるおそる眞佐樹はあんぱんを受け取って、ちびちびと食べ始める。おいしかったようで眞佐樹の顔にはぽわぽわと笑顔が咲いていた。それを見て俺もほのかに笑う。
「柔の言ってること、ちょっとわかったかも」
「そうか。それは良かった」
「なんかおいしそうに食べる柔見てたらあったかい気持ちになった」
そう言って眞佐樹は嬉しそうに笑みをこぼした。あんぱんはあっという間になくなってしまったけれど、はんぶんこして得た幸せは長く心にじんわりと染み渡った。
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