日曜の朝は、

 温かな光にくるまれてゆうるりと目を開ける。そばにあった時計を見ると時刻は午前十時。

 ずいぶん寝たにもかかわらずいまいち取り切れない疲れと鈍く痛む腰を煩わしく思いつつ立ち上がると、腹の奥がほんのり疼く感覚がした。昨日の余韻に思わず赤面する。この感覚は何度経験しても慣れない。気を紛らわせるようにはあ、とため息をついて歯を磨きに洗面台へ向かう。

 口をゆすいで歯磨き粉をたっぷり付けた歯ブラシを持ってリビングに戻ってくると、がちゃんと玄関のドアが開く音がした。

「ただいま~っと。……あれ、柔起きてたの?」

「さっきな。買い出しか?」

「そうそう、サンドイッチ作ってる途中でマヨネーズが足りなくなっちゃって。冷蔵庫見てついでに色々買ってきた!」

 そう言って眞佐樹が得意げにエコバッグを差し出してくる。受け取って中を見ると、買わないといけないと思っていたものが一通り揃っていて眞佐樹の成長具合に感動する。昔は俺がいないと買い物一つできなかったのに。この成長に免じてお菓子を買い込んできたのには目をつぶってやろう。

「ありがとう、助かる」

「よかった~。じゃあサンドイッチ作っちゃうから柔はリビングで待っててよ」

「何か手伝うことはあるか?」

「ううん。……昨日無理させちゃったし、ゆっくりしてて」

 いつものぽわぽわした雰囲気からガラッと変わって夜の空気をまとった眞佐樹が妖艶な笑みと共に耳元で囁いてきたものだから、また顔に熱が集まる。こいつは俺が眞佐樹の顔を好きなことを分かっていて時折仕掛けてくるもんだからたまったもんじゃない。どきどきぞわぞわして、さんさんと光が降り注ぐ朝なのにどうにかなりそうだ。

 でもやられっぱなしは気に食わないから、眞佐樹の胸元をぐっと引き寄せてキスをお見舞いする。すると眞佐樹も赤面して「柔、ずるい!」なんて癇癪かんしゃくをおこした子供みたいにじたばたするもんだから俺は声をあげて笑った。まったく、ずるいのはどっちだ。

 眞佐樹の言葉に甘えてソファでごろごろしていると、眞佐樹がキッチンからお皿を持ってやってきた。コーンスープの匂いが空腹を刺激する。

「柔、ごはんできたよ」

「おう、ありがと」

 腰をかばうようにゆっくりと立ち上がる。それを見て眞佐樹は少しバツの悪そうな顔をしていた。加減しろよと視線で訴えると眞佐樹はそっぽを向いた。こいつ、やめる気ないな。

 席についてテーブルを眺める。おいしそうなサンドイッチとコーンスープ、そして俺の好きなココアが並んでいて甘やかされているなと実感する。

「まさか眞佐樹にメシを作ってもらう日が来るとはなあ……」

「もう、初めてじゃないでしょ。ココアとスープ冷めちゃうからたべてたべて」

「いただきます」

「いただきます!」

 まずはサンドイッチを手に取る。レタスはみずみずしくシャキシャキとしていて、にんじんは細切りにしてわざわざマリネしてくれたみたいだ。サラダチキンも丁寧にカットされていて食べやすい。具材の一つ一つから眞佐樹の愛情が伝わってきて、なんだかくすぐったい。コーンスープもお湯を注ぐだけでいいのに牛乳で戻して温めてくれている。言わずもがなココアは俺の好みの甘さだ。

「……ありがとな」

「ん? 何が?」

「俺のこと考えて作ってくれたってことがすごく伝わってきて、なんかあったかい気持ちになった」

「……柔が教えてくれたからだよ。柔の料理はいつだって優しいから、俺もたくさん柔に優しくしたいの」

 優しく甘く眞佐樹が笑うから、俺も自然に笑みがこぼれた。眞佐樹と暮らすようになってから、俺は良く笑うようになったと思う。眞佐樹と一緒にいるといつのまにか自然と笑っているのだ。

 互いの愛情を感じながら柔らかに笑いあった、そんな優しい朝。

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