伝説の剣を抜く係
阿炎快空
伝説の剣を抜く係
今は昔。
英雄達が旅の果てに魔王を倒し、世界には一時の平和が訪れた。
その後、旅の仲間であり、兼ねてから恋仲にあった二人——鋼の肉体を誇る剣士ゼノンと、あらゆる魔法を極めた魔術士リーネは結婚。
二人の子供は「ゼノンの身体能力」と「リーネの魔力」とを受け継ぐ次世代の勇者になるのではと、民の期待を一身に背負っていた。
それから、遥かな時が流れ。
——いつの世にも、悪ははびこる。
二人の子孫である僕は、新たな魔王が誕生したとの報せを受け、とある洞窟の奥深くへと足を踏み入れた。
祭壇には、かつてゼノンが〝当時の魔王〟にトドメを刺した聖剣が突き刺さっている。
我が家に代々伝わるこの剣は、ゼノンの血筋でなければ抜くことができないのだ。
柄の部分を両手で握り、深呼吸の後、
剣は僕を主と認め、その光輝く刃を露わにした。
嗚呼、なんと美しい。
僕が思わず溜息をついた、その直後、
「はーい、お疲れ様でーす」
王の使いが、間延びした声で私に告げた。
「じゃ、後はこちらで引き継ぎますんでー」
「あ、はい。王によろしく」
そう言い、剣を使いの者に手渡す。
僕はあくまで『剣を抜く係』。
お役目はここまでだ。
かつてゼノンとリーネの間に生まれた子供は、民の期待に反し、単純な魔法すら使えない「ゼノンの魔力」と、体が弱い「リーネの身体能力」とを受け継いで生まれてきた。
英雄の子供が英雄になれるとは限らない。
以降、二人の子孫達は、世が乱れる度に伝説の剣を引き抜き、他の優秀な戦士へと託す役目を担ってきた。
おかげで、国からは贅沢な暮らしを保証されている。
もっとも近年では魔王討伐に用いられるのはもっぱら火薬などを用いた近代兵器。
伝説の剣も、戦意高揚の為のお飾りみたいなものだ。
加えて、問題が一つ。
もうすぐ五歳になる娘の件だ。
美しい妻との間に生まれた、くっきりとした二重瞼が可愛い自慢の娘なのだが、彼女にはなんと剣を抜く素質すらないのだ。
そもそもゼノンの家系に女が生まれること自体が異例であり、学者達も様々な見解を示している。
一部では「いくら伝統とはいえ律儀に祭壇に剣を戻さなくてよいのでは」や「そもそも形骸化した一連の儀式に意味はあるのか」といった意見も出ている始末だ。
「剣と魔法の時代ももう終わり、ということなのかもな……」
しんみりした口調の僕の呟きに対し、
「旦那様の仰る通りかもしれませんね」
そう頷き——二重瞼が印象的なハンサムな召使いは、うっすらと微笑んだ。
伝説の剣を抜く係 阿炎快空 @aja915
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます