ユーチューバーの俺が企画で本当に異世界に行ってしまった話 〜いやだから編集じゃねぇって〜

響キョー

企画できました

「はいどうもこんにちは! タカラノヒビ、ユウです!」


 俺は最新スマホのカメラに向かって、でっかくピースサインをつくった。


 なぜか、その理由はいたってシンプル。


 そう、俺は……


 ユーチューバーだからだ!


「本日はですね、なんと異世界に行きたいと思います。では早速行って見ましょう!」


 なかなかにぶっ飛んでいるこの企画を考え付いたのは昨日。


 チャンネル登録者三十万人とそこそこ人気になってきたタイミングでだ。


 順調に登録者を増やしている。だが先日、相方が違法賭博で捕まってしまった。まるでどこかのスーパースターのようだ。


 それに加えて、ネタが思いつかないので正直焦っていたのもある。


 だが急にビビッときた、気づいたらしてみようと思っていた。


 だが適当なことをするわけではない。もちろんソースはある。


「実はですね、今日この企画をするにあたって情報を提供してくれた方がいます!」


 今、俺はその情報提供者が教えてくれた場所に、カメラで撮影しながら向かっている。


「その情報提供者とはなんとチャンネル登録者二百五十万人の、ピクルーズさんです!」


 まあ端的に行ってしまえばオカルト専門のユーチューバーの顔のような人だ。


 そういう類では無類の人気を見せている。


 さっそく視聴者からのコメントがついた。


猫がっぱ「本当に異世界なんかあんのかよwww」


たつじろ「どしたどした」


なめこんあ「急に頭おかしくなったw」


 そう思われるのも仕方ない。何故なら、今までの俺の企画は、商品紹介が主だったからだ。


 この前の「乗れるドローン」では、かなりの視聴者数を稼がせていただいた。

 落ちて死にかけたが。


 それに、俺もまさか本当に異世界に行けるなんて思っていない。


 結局はどれだけ視聴者を楽しませることができるかだ。


 そう、俺はエンターテイナーだ。


「さあ着きました! ここから異世界へ行くことができるらしいです!」


 そこはなんてことのない、人気のない路地だった。


 薄暗く、普段なら俺も入ろうとは思わないだろう。


 さて、俺は今からヤラセを行う。


 ピクルーズさんの名誉を守るためにも、視聴者をしらけさせることがあってはならない。


 彼もまた、エンターテイナーだ。人を楽しませることが仕事なのだ。


 そうだな、気絶したフリあたりが一番現実的だろう。


 しばらくして起き上がり、


「はっ! 戻ってきた!?」


 とか言えば完璧だ。


 さすがにアンチは怒るだろうが、ネタとしてとらえてくれればいい。


 正直視聴者も、まさか異世界へ行けるなんて思ってもいないだろう。


「よしよーし、それじゃあ呪文を唱えたいと思いまーす!」


止め字「待ってました!」


AGU「スベる準備はできてるぞwwww」


まいる「異世界!異世界!異世界!異世界!」


「ニャルフトピテクルス!」


 噛まずに言えた!


 というか恐竜の名前みたいだな。


 まあ案の定、予想通りなんの変化も感じられない。


 俺は作戦通り目を閉じ、よろけるフリをする。


「う、めまいが……!」


 俺はそのまま冷たいコンクリートの地面に触れるはずだった。


 だが感じるのは柔らかい土肌と、風がそよぐ音だけだった。


「うん?」


 目を開けると、そこは知らない世界だった。


「なんじゃこれえええええええ!」


 木々に囲まれた、見渡す限りの草原。


 初めて見る、ウサギっぽい生き物。


 そして


「圏外になりやがった……」


 ユーチューバーにとって圏外とは、死に次ぐ恐ろしい言葉である。


 だから俺は配信が切れているだろうと思った。


 だが圏外になっていても、俺のスマホは配信を続けていた。


 最新のスマホすげええええ!


こめじるし「え、画面切り替わった!?」


亀家「編集ってすげえ」


こめじるし「なんだ編集かー」


 コメント欄では、画面の切り替わりが編集だと言い張る人が増えてきた。


 いや配信中に編集はできねえよ!


 まあ正確に言えば、しようと思えばできるが。ただこんな一瞬では無理だ。


「すごいですよ! 本当に異世界に来てしまいました! 編集じゃないですよ!」


亀家「はいはいすごいすごい。編集乙www」


鳩山「必死に編集してんの草」


笑う仮面さん2「でもさあ、こんなすぐ編集できるか?」


めんこ「出来なかったらユーチューバーじゃねーだろwwww」


 だから編集じゃねええええ!


 もう俺配信中だから平常心装ってるけどなあ! ちょっとちびったぞ!


 てかどうする?


 帰り方聞いてなかった☆


 というかピクルーズさん何者だよ。


 うーん。もしかしたら、この世界に俺と同じような人がいるかもしれない。


 やることねえし散歩でもするか。人を見つけたら、色々話を聞いてみよう。


 さて、話は変わるが俺は今年でユーチューバー歴七年目になる。


 もうこのくらいユーチューバーやってると、自分の安全どうこうよりも、ずっと視聴者受けを気にしている。


 ハプニングはあればあるほど面白い。


 イベントは思い通りに行かなくて当然。


 そんな考えにねじ曲がっているので、もはや異世界に対する危機感や恐怖は馴染んでしまった。


 職業病とはこのことだ。


「お、あちらに村がありますねえ」


 俺は意外と近くに集落のようなものを発見した。


 近づいてみたが、集落は俺を歓迎してくれないようだ。


 集落の正門にいた護衛の人から、怪しい奴だと思われて追い出されてしまった。


 まあ実際怪しいんだけどね。


きし〇「それにしても良くできた編集だなあ」


隆正「もう一人でドキュメンタリー撮れんじゃねw」


るんぴっぴ「タカラノヒビ・ユウ監督、全米が笑ったとか?w」


肉まんじゅう神「草wwwwwwww」


きし〇「草に草を生やすなwwwwwwww」


メル友153「大草原不可避wwwwwwww」


@6373kyk「やwwwwwwwめwwwwwwwwろwwwwwwwwww」


 何が草じゃあああああああ!


 こっちは追い出された挙句、帰れないんだぞ!


 全然笑えねえよ。昔のニコニコみてえな反応しやがって。


 それに腹も減った。


 鞄の中にいろいろな機材は入れてきたが、食料は何も入っていない。


 ぎりぎり食べれそうなものと言えば、昔バイト先のコンビニで、在庫処分でもらった大量の七味だけだ。


 なぜ七味?


 ああ、思い出した。


 うどんに七味を山盛りかけてみたいとか言ったんだ。


 それにしても腹が減った。今日は昼をまだ食べていない。


 だって普通に異世界に行くとか思ってなかったし!


 ほっつき歩き二時間。


 スライムらしき生命体とか、なんか見慣れたやつらはいたが、全部無視していった。


 寄ってくる奴からは全力で逃げた。だって怖いじゃん。


 するといつの間にか視聴者の数はいつもの倍以上になっていた。


 どうやらツイッターのトレンドにもなってるらしい。


 やったあ、チャンネル登録者大量獲得だ! じゃなくって!


 やばいぞ、このままだと本当に死ぬ……。


「あの、旅のお方」


 その時、鈴のような耳障りの良い声が聞こえた。


 後ろを振り向くと、そこには耳が長く、ロングの銀髪で、いかにもエルフと言った女性が立っていた。


 何よりもスタイルがいい!


 引き締まった体に、出るとこ出てるシルエット。


 どうせ殺されるのならこんな美人がいいなあ。


「はい、何でしょう」


「えと、その、助けてくださいませんか?」


 彼女は少し上目遣いで俺を見た。


 ひゃっほー、それは反則だろおおおおおおお!


にっとぼー「!?」


ピーナツ「かわいすぎだろ」


こっこ「編集もここまで来たか……」


竹下野郎「もはや映画のクオリティ」


たらこマン「お付き合いを前提に僕と結婚してください」


 俺はできるだけきりっと頬を引き締め、数トーン声を低くした。


「いいでしょう、何にお困りですか?」


 すると彼女はパーっと表情を明るくし、大きな笑顔を作った。


「ありがとうございます!」


 だからそれ反則だっちゅーの!




 彼女に連れられてきたのは、彼女と同じエルフたちが住む集落だった。


 先ほどの人間たちの集落とは違い、非常に友好的に接してくれた。


 エルフ大好き。


「それで何をすればいいんですか?」


「あのですね、私たちは風の魔法が使えるんですけど……」


 すげえ、日常生活で魔法が使えるとかどうとか会話するなんて夢にも思わなかったぜ。


 さすが異世界。


 俺もあと数年童貞貫いたら魔法使いになれるので、まあ羨ましくはないがね。


「この近くにゴブリンたちの巣窟が最近できまして。そのゴブリンたちが襲ってくるのです。けれどもゴブリンに風の魔効きづらく、困っているのです」


 なんでも、エルフたちが使える風の魔法と言うのは、つむじ風を起こせる程度の物らしく、竜巻とかを起こして攻撃するとかはできないらしい。


「エルフの皆さんは何か攻撃手段とかないんですか?」


「刺せば絶命させることができるナイフならみんな持っています」


 怖っ。


 刺せば絶命ってチート武器じゃん。


 いや、流石に触らないよ? いくら怖いもの知らずと言っても、明らかに怖いものは嫌だよ。


「ですが私たちは非力なもので、刺す前にゴブリンたちに殺されてしまうのです」


 確かに彼女たちは線が細く、武闘派な感じは全くしない。


「なので時間を止める魔法とかさえあれば勝てるのですが……」


 彼女はチラッと俺の方を見た。


 いや……無理よ?


 俺ただの一般ピーポーだから。


 異世界転生と言うか遊び感覚で来ちゃったから。


 神様にも会ってないのよ。時間を止めたいなら、全身黄色の吸血鬼とか探すといいよ。


 それに俺一人が知恵振り絞ったところでゴブリンに勝てるとは思えな……ん?


「あなたの名前、聞いても良いですか?」


 すると最初にあったエルフの人が、ハッとした顔をして、


「あ、これは失礼しました。私はサリアと申します」


 俺も名を名乗っておく。


「俺はユウです。サリアさん、数秒間ゴブリンの動きを止める事ならできますよ」


「本当ですか!?」


 俺は一人、自分が天才なのではないかと震えていた。


 時間を止めることは出来ないが、稼ぐことなら出来るじゃないか。


 決戦は夜。


 ゴブリンたちは夜に弱いと聞き、その時間を設定した。


 今の俺は、エルフの里で美人に囲まれてご飯も食べ、サリアさんとイチャイチャしたので無敵だ。


 その間のコメント欄と言えばひどかったなあ……。


こめじるし「やばいよ……、ついに編集で作り上げた人たちとイチャついてるよ……」


けむろー「誰か大きい病院の電話番号プリーズ」


がふワン「ここまで来ると痛くて見てられねえな」


辺岡「戻って来い!」


 だが何と言われようと、ここは現実世界だ。現実の異世界だ。


 夢でも編集でもない!


 俺たちがゴブリンのアジトに着いた時、ゴブリンたちは全員でにやにやと笑っていた。


 そりゃそうだ、ゴブリンの方が有利だもんな。


 数的にも力的にも。


 ……ちょっとだけ、エルフの人が負ける所を見てみたいな。別に下心がある訳じゃないけどね。ね?


 冗談だ、今のは笑うとこだぞ。


「サリアさん、始めてください!」


「はい!」


 俺は箱の中に入ったをまき散らした。


 そしてそれをサリアさんたちエルフが、風の魔法を使いゴブリンめがけて吹き飛ばした。


「ぎゃあああああああああああああああ!」


 ゴブリンたちはそれが目に入った途端、目を抑えてうずくまりだした。


 そう、その赤い粉の正体とは、


「七味に苦しむと良いぜ」


 七味が目に入れば誰だってそうなる。


 義務教育で教えられるレベルだ。


 そのすきにエルフたちは、例のナイフでグサグサとゴブリンたちを刺しまくっていた。


 ちなみにちょっとグロかった。


 それからしばらくすると、サリアさんが俺のところに戻ってきた。


「殲滅し終わりました。本当にありがとうございました」


 そういう彼女の体は血に染まって真っ赤だった。


 全身真っ赤なエルフたちが、笑顔で俺を囲み始めた。


 ちょっと怖かった。


「いえいえ、困った時は助け合い、ですよ」


 ゴブリンたちを殲滅し終えた後、俺は宴に参加していた。


 美人な人たちが歌って踊り、酒を注いでくれるパラダイス。


 イケメンのナイスガイも、親しく会話をしてくれた。


 帰りたくないよお。

 大体、一人でパソコンで編集して、スマホにぶつぶつ話しかける仕事ってなんなんだよ。


 ばっかじゃねぇの。チヤホヤされて生きる方が、よっぽど楽しい人生だ。


 だが視聴者からは、本気で頭を心配する声が多く上がっていた。


小田「病院はまだか」


山田「間に合わなかったか……」


笹田「もう終わりなのか……」


園田「じゃあなユウ」


志田「また元気に配信してくれる日を待ってるぞ……」


 あれ、俺死ぬの?


 というか、名前の田の率高いな。


「ユウ様」


「サリアさん」


 サリアさんは、俺の横に座ると、俺の手に何かを差し出した。


「これは?」


 手を開いてみてみると、それは虹色に光る石だった。


「それはあなたの願いを一つ、具現化させることのできる魔石です。先ほどのゴブリンどもから回収しました。どうやらエルフやゴブリンなど、魔族は使えないようなのです」


 つまりなんでも願いが叶う石ということか。


 簡単に言えば、一つで叶うドラゴ◯ボールだな。


 願いがなんでも適うならやっぱりあのお願いしかない。


 サリアさんと結婚……もいいが違う。


 やっぱり元の世界に戻らないとな。目から血が出そうなほど惜しいが。


 俺はユーチューバーだ。エンターテイナーなのだ。


 視聴者を笑わせることはあっても、悲しませたり心配をかけてはいけない。


 次の日、里が寝静まったころ、俺はこっそりエルフの集落を出た。


 またみんなと話していたら、余計名残惜しくなってしまいそうだからだ。


 サリアさん可愛かったなあ、なんだか惜しいことをした気分だ。いや実際滅茶苦茶惜しいことをした。


 サリアさんレベルの美人と、これから知り合うことができるのだろうか。


 はああああああー。


 俺は魔石に願った。


「俺を元の世界に返してください」


 すると魔石が輝き始め、俺の体を光が覆って行った。


 うお、すっごい感覚。


 うん、すごすぎて酔ってきた。


 うえ、気持ち悪。


 そして気が付くと、あの人気のない路地に立っていた。


 時間はきっちり一日たっているようで、まだ太陽が昇り切っていない。


 配信は大盛況を呼び、一時記録的な視聴者数がいたらしい。


 まあ大体はエルフ目当ての視聴だろうけど。


「さーって、編集すっか!」


 やることはまだまだたくさんある。


 しかし、これで俺もだいぶ有名なユーチューバーになっただろう。


 ピクルーズさんにも、お礼を言わないとなー。本当に異世界行けましたって。

 

 それにしても人気ユーチューバーかあ。へへ、いつかモテるのかなー。


タコの手「やっぱ編集じゃん」


徳平「おいおい、最後の詰めが甘いぞwww」


明日の今日「これからも異世界配信 (笑) してくれよ」


 ああ、全くこいつらは仕方ねえな。でも可愛げのある奴らだぜ。


 ユーチューバーの配信でおかしな事が起こったら、大体異世界に行ってる。


 それを信じない奴らには何度だって言ってやる。


「俺は本当に異世界に行ったんだああああああああああ!」


 数年後、こうして俺がハリウッド映画のCG作ったりすることになるのはまた別の話。


 ちなみにこの配信をした年の流行語大賞が、


「本当に異世界に行ったんだああああああああああ!」


 になったのも、また別の話だ。


 というかピクルーズさんに、本当に異世界に行けました、って言ったら爆笑された。


 適当な嘘をつかれたのかもしれない。まあ、別に良いけど。


 やれやれ、全くエンターテイナーも楽じゃないね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ユーチューバーの俺が企画で本当に異世界に行ってしまった話 〜いやだから編集じゃねぇって〜 響キョー @hibikikyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ