元気すぎるゾンビ

天川裕司

元気すぎるゾンビ

タイトル:元気すぎるゾンビ


俺は少し前に交通事故に遭って人間の世を去り、

唯一の親友にスピリチュアル蘇生法をもって

生き返りかけたがその生き先は現世ではなく霊界で、

それからずっと霊界をさまよい、お菊にも会い、

こちらの霊界で日常生活を送るようになっていた。


そんなある日のこと。

お菊のために復讐の手助けをしようと誓った俺は、

元気すぎるゾンビに出会った。


ちょうどお菊がトイレに行ってた時、

向こうからブア〜〜〜っと

猛スピードで走ってくる何かが居るのに気づき目をやると、

それがゾンビだとわかった。

走るゾンビ。ゲームにもよく登場していただろう。


「はぁ、なるほど霊界だから…」


そいつは俺に食ってかかろうとしたが、なにぶん俺も霊。

食ってかかる箇所がなく、ハテナの顔をしたあと

ヤツは黙り込んでしまった。


妖怪や霊の類は、自分のする事がなくなった時、

あるいは自分と対等の力を相手が持っていると

知った時には、何もすることなく、

その場でたたずんでしまうものらしい。


そして俺は前々から思っていた事を彼に言った。

「…あのさ、そんだけ元気があるんならさ、働いてみたら?」


そいつは始めぼーっとしていたが、

少し灯台もと暗し的な発想が自分の中にも芽生えたのか。

それまで気づかなかったことに気づいた顔して、

俺の顔を改めて見つめ直した。


「いや、もし働く場所があったらの話なんだけど、そんなに元気があるんなら…と思ってさ」


どうやら働く場所はあったらしい。

まぁそれでもこの霊界の仕事場だから

現世のそれとは全く違い、

お疲れ様大会や腕相撲大会、

マラソン大会に出て優勝することが

1つの仕事になっていたようだ。


「へぇ変わってるんだね」

と思う間もなく、ヤツは走っていった。


霊界には力の無い奴が多かった。

霊同士ならそうなるのかもしれない。


腕相撲大会では、ヤツはゾンビゲームなんかで

ドアを打ち壊せる程の怪力の持ち主ながら、

ぶっちぎりで優勝。


マラソン大会では、実際ゲームなんかで

主人公をどこまでも追っかけてくるあのしつこさを

奏でる耐久力・執着心がずば抜けていたのもあり、

こちらも2位以下とは大差をつけての優勝。


そして霊界(こちら)で初めて知った

「お疲れ様大会」なるものでは、

疲れた容姿を周りの観客と審判に見せ、

「ほんとに疲れてそうだなぁ」

と出来るだけ多くのヤツに

認めさせたヤツが優勝するらしい。

ゾンビである彼は他の大体のヤツを抑えて上位に上がり、

あれだけ全力で動きまわっていたのが功を奏して、

こちらもかなりの投票により優勝を果たした。


こういったイベント企画物で優勝すること、

又は上位に組み込むことが、霊界(こちら)での

立派な仕事に認められるらしいのだ。


ヤツは仕事に就くようになり、

それまでとは180度、生活が変わった。

そして俺の目の前まで又思いっきり走ってやってきて、

「あんがと」と言って帰って行った。


現世では人間に対し、ガーとかウォーとか言ってる奴らだが、

霊同士になってちゃんと向き合い、

話を聴く姿勢にあれば、

ヤツらはちゃんとしゃべれるらしい。

そのこともわかった。


「お待たせ!」

お菊が帰ってきて、俺たちはまた旅を続ける。


彼女がいない、あのたったひと時の間に、

ゾンビの生活を変えた俺だったのだ。

この先も、もしかすると

そういう事があるかもしれない。

霊だからか、少しその辺にゾクゾクしていた。


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=L-tvDF0dlmY

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元気すぎるゾンビ 天川裕司 @tenkawayuji

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