異世界切符

@seisaito

第1話

ある日突然、別の世界に行く権利を手に入れたとしたらどうするだろうか。


日本人の男子なら一度はこういう妄想をするだろう。


しかし、現実に僕の手には今、その権利がある。


朝、学校へ登校すると、机の中に見覚えのないノートが一冊はいっていた。


デスノートを彷彿とさせる真っ黒なノートで、表面には文字も何も書いていない。


開いてみると二枚の切符が挟まっていた。


異世界へ


淡白に書かれたその文字は仰々しく、現実にあるどの切符とも形容しがたい。


ノートの方をみてみると、どうやら切符の使い方が載っているようだ。


駅の改札に普通の切符の様に入れればいいらしい。


文末には勇者様方の到来を心よりお待ちしております。と書かれている。




ノートを見つけてから数時間がたち、学校も終わってしまった。


その間、ずっと異世界について考えていた。


正直言って、罠なのではないかと思う。


誰かが俺を笑い者にするために仕掛けた罠だ。


だが、確かめようにも、こんなことを誰かに言ったらおかしなやつだと思われる。


今はまだ新学期が始まって間もない。


そんな早くにヤバイ奴認定を食らったら、どうやってこの一年を過ごせばいいのかわからない。


捨てるのが無難ではある。


ただ僕の心にあるロマンがそれを許さない。


しかし、問題がある。


仮にこの切符が本物で、僕は異世界に行くことができたとしても、この切符を使うことができない。


僕はまだ、想いを伝えていないのだ。




新学期が始める前の春補習で、僕はある人と出会った。


髪は長く、顔は整っているが目付きが悪く、胸は平均的で、身長は女子にしては高い。


そんな女に恋をした。


彼女と僕は同じ電車を使っている。ただそれだけの関係である。


そのため、名前も知らない。


座って勉強していたので、わざと前に立って、名前を確認しようとしたが見えなかった。


電車の中で勉強しているのをみる限り、どうやら、高校三年生らしい。


同じ高校でもないため、接点を持つ手段を考えていたら、一ヶ月も経っていた。




彼女はとても美しく、眺めているだけでとても幸せな気分となった。


最初は行きの電車だけの関係だったが、数々の試行錯誤のおかげで、帰りの電車まで突き止められた。


しかし、彼女はいつも電車を使うわけではない。


月曜、水曜日、そして偶に金曜。


それ以外の日にちには見たことはない。


別の時間の電車を使っているのかとも思ったが、ズラしてみても見つからない。


これはとても悲しいことだった。


しかし、今はとても好都合だと思っている。


なぜなら、彼女のいない日は普段、彼女が使っている椅子に座れるからだ。




学校が終わった後も、しばらく学校に残りノートについて考えていた。


すっかり時間を忘れていた僕は、彼女が現れる電車に乗り遅れそうになった。


急いで電車に乗り込み、電車の3両目に移動する。


今日は金曜日だったが彼女はいた。


先週はいなかったため、おそらく二週間に一度なのだろう。


二週間に一度の彼女に僕は興奮した。


他の日とはレア度が違う。


人が少なかったため、あえて前の手すりにつかまるというようなことはしない。


ドアの横にある手すりに格好つけながら立つ。


僕にできる最大限の自己アピールだ。


しかし、あんなに可愛いのに電車に乗って、痴漢なんかにあわないのだろうか。


もし、僕が痴漢をする様なやつだったら、絶対に見逃さない。


だが、僕はそんなことはしない。紳士だから。


そんな事を考えていたら、僕が降りる駅についた。


だけど、今日は降りない。


彼女をもう少し見ていたいから。




彼女は僕の最寄り駅よりも3つ奥の駅で降りた。


それに僕はついていく。


辺りは結構田舎で清楚そうな彼女にとても似合っている。


彼女は改札を通り過ぎようとする。


彼女が使ったのは切符だった。


おそらく、毎日乗るわけではないからだろう。


僕はこれ以上はいかない。


彼女の家まで行きたい気持ちもあるが、少々罪悪感がある。


僕は大人しく振り返ってホームへと戻る。


その時、少し前に歩いている人が切符を落とした。


どうやら、気が付いていないようで、そのまま歩いていく。


急いで駆け寄って、切符を拾い、落とし主に渡した。


なんか、いいことをした気分だ。


その時、僕の頭に名案が浮かんだ。


彼女と接点を作るいい方法が。




休みが明けて月曜になった。


今日が楽しみであまり寝付けなかったが気分は良い。


授業中も話を聞かず、ずっと彼女のこと考えてしまう。恋の病だろうか。


授業が終わり、いつもの電車に乗る。


ここ最近のルーティンだが、今日はいつもの数倍鼓動がなっている。


3両目に行くといつもの様に彼女はいた。


美しい彼女に見惚れていると、すぐに自分の最寄り駅についてしまった。


だが、今日も彼女を追いかける。


3つ奥の駅で降りた彼女を追跡した。


そして、彼女が改札を通る少し前に満を持して話しかける。


喉から心臓が出そうだ。




「あっ、あの切符落としましたよ」


「..ありがとうございます」




彼女はそう言ってニコッと笑って切符を受け取った。その笑顔はまるで天使のようだ。


だから、僕にも多少の罪悪感がある。




その後、彼女は改札に切符を通した


その瞬間、彼女は消えた。


彼女は切符を落としていない。


僕が渡したのは異世界切符だ。


計画通り。


その後、僕も切符を改札に通した。

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