粛清者

釣ール

身勝手な任務

 他人から見れば理不尽にみえる粛清しゅくせい

 身勝手な命令に身勝手な徴収ちょうしゅうに始末。



 動植物から人間がうらまれるように、わたしたち粛清者が憎まれないわけがない。



 だがわたしたち粛清者と人間になんの壁も上下もないのだ。



 我々も食っていかなければならない。

 いま生きている日々が充実した守るべきものと思い込みながら。



 サラリーマンにも専業主婦にもましてや飼っている動植物にもお礼を言わない人間たちにわたしたちを否定されるいわれはないのだ。



 そんな人間たちのしあわせを粛清した人間がすがろうと血にまみれた手が伸ばす先にあるものを少しだけかたよってはいるが粛清者としてわたしは見た。



 インプレゾンビと言われながらも金と数字を欲しがるやつがいる。


 それは仕方がない。

 粛清者たちでさえそこは嘘はけないのだ。


 いつの時代も正論と本能ばかりで生きづらい。

 こりゃ先が思いやられるよ。

 選択肢なんてもっとあるはずなのに。

 どうしても人間は自分のためだけに血と肉を名誉に金と争いで満たしたいのか。



 いや、わたしたちがそんなこと言えるわけないか。

 何人も命令のためにほうむってきたじゃないか。



 毒されちまったのか?この景色に?



 なんてこった。

 本音で苦しくなるよりも、きれいごとで身を守ることほうが善だといまだに思い込むしかない。

 素直なことは誰もいえないのかもしれない。

 いや、いえばいいってものでもないか。



 さばくものはさばかれる。

 それは人間じゃない粛清者たちにも言えるだけだった。



『頼む!金だけは払うから見逃してくれ! 』



『私が悪いだけ。この子だけは…この子だけは助けて! 』



『俺ひとりだけが見てたわけじゃない!他のやつらも同罪じゃないか! 』



 そうだ。

 等しくみにくくどこか欠落けつらくしている人間を命令通り斬った時についた人間たち悪 魔の返り血をあびたときから人間が例える英雄と同じように粛清者であるわたしも誰にも強い物言いが出来ない存在。



 忘れたことはなかったはずなのに。

 見たくもない景色とうたがいしか見えない満足さは全て罪が伝染でんせんした悪魔の自己満足でしかないのかもしれない。



 それでも粛清はやめられない。

 人間の犠牲と小さな命を護るバランスを大義名分にわたしたちも暮らしていく。



 今日も数字を求める悪魔の血を浴びて笑顔で家族のもとへ帰る。



 痛みと罪悪感にゆがめられながら。

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粛清者 釣ール @pixixy1O

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