071 縄張り争い

 報復といっても今すぐに攻め込むわけではない。

 動物たちはその気のようであったが、それでは返り討ちに遭うだけだ。


「俺たち人間は肉体的な弱さを知能で補っている。戦うのであれば闇雲に攻めるのではなく、頭を使って考えることが大事なんだ。時間をくれ」


 いきり立つ動物たちをなだめ、戦う日を明日以降に決定した。

 とはいえ、猶予はそれほどない。

 どれだけ遅くとも1週間以内に攻撃を仕掛ける必要があるだろう。

 さもなければ、俺たちがコイツらに殺されかねない。


 今回の一件は、自分の立場について考える良い機会になりそうだ。


 ◇


「さて、どうしたものか」


 俺の家に皆が集まり、縄張り争いについて考える。

 動物たちは解散していつものように過ごしていた。


「どうもこうも、こんな時こそ傭兵の出番っしょ!」


 千夏が言った。


「傭兵って何のことだ?」


「兵藤たちに決まってるじゃん! 助けてやった恩を返してもらう時だろ!」


「あぁ」


「戦力は多いほうがいいもんね」と賛同する吉乃。


 千夏は「そういうこと!」と大きく頷いた。


「ごもっともな意見ではあるが、残念ながら今回は頼れそうにないな」


「何でさ? 知ってると思うけど、兵藤ってウチらに気があるよ! まぁウチらつっても本命は麻里奈っぽいけど、頼めば協力してくれるって!」


「へぇ、兵藤って麻里奈先輩のことが好きなんですかー」と七瀬。


 麻里奈は「そんなことないと思うけど」と苦笑い。


「兵藤に頼めば喜んで協力してくれるだろう。だが、問題はそこじゃないんだよ」


「どゆこと?」


「兵藤の性格上、見返りを求めてくるのはまず間違いない。で、その見返りっていうのは、自分が南の森を支配する、とかそんなところだろう」


「たしかに! でも別にいいじゃん、その程度なら!」


「果たしてそう言えるかな? 気を大きくして縄張り争いを仕掛けてきてもおかしくないぜ。というか、俺はそうなる気がするんだよな」


「えー、海斗、兵藤と仲良くなったんじゃないの?」


 千夏は眉間に皺を作った。


「多少の関係改善はあったけど、それは俺が兵藤より強いという前提で成り立っているものだからな。動物という新たな戦力が加わったらどうなるか分からない」


「私は大丈夫だと思うけどなぁ」


「俺もたぶん問題ないとは思う。確率的には半々といったところだ。でも、確信が持てないので頼りたくない」


「それもそうだねぇ」


 千夏が納得し、他も「そういうことなら」と俺に賛同した。


「兵藤に頼らないとして、じゃあどうやって戦うの?」


 麻里奈が尋ねてきた。


「戦力は相手の方が遥かに上なんだよね?」と吉乃も続く。


 サルによると、南の縄張りは大型の類人猿が多いという。

 ゴリラやオランウータン、チンパンジーのことだ。

 そのうえ支配しているのが巨大なゴリラときた。

 フィールドが森林であることも考慮すると相手に分がある。


「ひとまず相手の戦力やボスの姿を確認したいな」


 敵のより具体的な情報が必要だ。

 孫子も「を知り己を知れば百戦あやうからず」と言っていた。


「まずは様子見で軽く仕掛ける感じですか?」


 ここまで無言だった由芽が口を開く。

 俺は「そうだな」と頷いた。


「今日は遅いから、明日の朝にでも挑んでみよう」


 それが今回の結論だった。


 ◇


 話し合いのあと、広場で矢の量産を始めた。

 どのような戦術であれ攻撃手段は弓矢がメインになる。

 矢はどれだけあっても困ることがない。


「「「ウキキィ!」」」


 複数のサルが七面鳥を連れてきた。

 数は3羽


「おー! ふっくらして美味しそう! 丸揚げにしよう!」


 ニィと笑う千夏。


「「「コケコォ!?」」」


 ニワトリのような声を上げてビビる七面鳥。


「たしかに七面鳥はクリスマスの定番だが、こいつらは食べないよ」


「そうなの? じゃあどうすんの?」


「矢羽根に使うんだ」


 俺は「だろ?」とサルに尋ねた。


「「「ウキ!」」」


 頷いている。

 七面鳥も縦に激しく首を振っていた。


「へー、七面鳥の羽根って矢に使えるんだ!」


「むしろ定番だぞ。俺たちみたいに硬めの葉を重ねるほうが異端だ」


「なんだってー!?」


「ウキッキ! ウーキキィ」


 サルが手慣れた手つきで七面鳥の羽根を抜いていく。

 人間用の矢を作るのだってお手のものだ。


「矢羽根がまともな物になったことで矢の質が向上したな」


「いいねー! なんか燃えてきた!」


 千夏が弓を掲げた。

 楽しそうなのは、戦争と狩猟を混同しているからだろう。


 ◇


 次の日。

 今日の服装は腰蓑……ではなく貫頭衣。

 さらに。


「久しぶりだな、コイツを纏うのは」


 巨大ジャガーの毛皮で作ったマントを装備した。

 支配者の証だ。


「さて、偵察がてら戦ってくるぜ」


 トラに騎乗する。


「いいなぁ! 私も行きたい!」と千夏。


 俺は笑いながら「諦めろ」と答えた。


 今回、人間は俺だけだ。

 同行するのはトラ1頭と約100匹のサル軍団のみ。

 素早く動きたいので機動力重視の編成だ。


「私らはいつも通りでいいんだよね?」


 吉乃が確認してくる。


「そうだ。料理を作ったり、森や川で食料を調達したり、あと弓矢の製作も……まぁその辺りの作業を適当に頼む」


「了解」


「細かいことは吉乃に任せるから、状況に応じて指示を出してくれ」


「分かった」


 俺は自作の弓を左手に持ち、腰の矢筒に触れる。

 トラに乗った状態でも矢を抜いて射ることができそうだ。


「今回は偵察だ。軽く仕掛けたらサクッと退く。怪我をしないよう意識してくれ。間違っても死ぬんじゃないぞ!」


「「「ウキィ!」」」


 サル軍団が左手を突き上げる。

 その手には可愛らしい弓が掴まれていた。


「では出陣!」


「ガオォ!」


 俺を乗せたトラが南の縄張りに向かって駆け出す。

 サル軍団も木々を伝ってついてくる。


 戦争の序章が幕を開けた。

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俺だけ余裕の異世界サバイバル ~転移先の無人島で楽しむハーレムライフ~ 絢乃 @ayanovel

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