第28話  マリオン・ゼナ・リーア

 アイーダが、その日遅くに帰ってきたキャスパー様にあたしの希望を話してくれた。それから、アイーダの提案も。


 キャスパー様は、非常に難しい顔をして、


「確かに、タナトス・リーアは、手に余るお転婆で、地位を上げたうえで監視付きで地方に飛ばされてたのですよ。でも彼女は、正式な巫女の修行をしての今の地位です。賢者様ともいっしょに、リリエンハイムの未だに光の神が根付いていない場所にも、伝道に行って、布教に尽力してます。なんだかんだで、タナトス・リーアは、お飾りの巫女リーアではありません」


「お兄様、でも、は、ロイル家のおさの想い人で、病弱で、出不精なおさを神殿の仕事に引っ張り出すためのだとも聞いてるわ」


 この言葉には、キャスパー様も呆れていた。


「タナトス・リーアをお飾りとは……アイーダ、言い過ぎです。彼女には実績があって今の地位にいるのです。でも、マリオンが祈りの儀式に参加したいのであれば、それなりの地位は必要になりますね」


「でしょう? お兄様」


 あたしと、マルタが寝ていた間に、アイーダがキャスパー様の帰りを待っていてくれて話をしてくれたらしい。


 キャスパー様は、寝室に入って来るとあたしを起こして言った。


「私の可愛い人、マリオン」


 オデコにキスをしてくれた。身体が火照ってしまう。


「キャスパー様……」


アイーダに聞きました。いっしょに祈りの儀式に参加したいとか?」


「はい」


「何の為ですか?」


 キャスパー様は、少し声を落として聞いてきた。


「忙しいキャスパー様の近くにいたいんです!! 駄目ですか?」


「動機が不純すぎですよ。夫の仕事の忙しさの口実に、妻が夫の仕事に関わってくるなど……」


「でもずっと、働いてきたの。家でお留守番なんて出来ない!!」


「困った人だ……16歳これから巫女リーアの修行を始めても遅くはありませんが、そこまで、神に尽くす心は有りますか?」


 あたしは、固まってしまった。神様をあまり信じてなかったんだもん。

 幼い時から、悪いことはあたしの所為にされてきた。

 だから、神様は不公平なんだとずっと思ってきたし、だから言ったの。キャスパー様に!!


「あたしは、キャスパー様のためにお祈りします」


 キャスパー様、あたしの二百パーセント笑顔に悩殺されてしまったみたい。

 もう何も言わなかった。

 その代わり、あたしをベッドに押し倒すと、唇を塞いだのだ。


「キャ……」


 あたしが言葉を発しようとしても、息が出来ないくらいの熱い口づけだった。


 そして、あたしにゼナ・リーアの特別な巫女の称号が送られたのは、三日後のことである

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