第25話  マルコと会ったらいけないの?

 こうして、あたしとキャスパー様の、神殿の隣の家での生活が始まった。

 でも、あたしには退屈なだけだった。

 キャスパー様は、なんと言っても次席の大神官グレイス・ルースト。賢者様の次に偉い人なので、とても忙しいのだ。


 毎日、あたしが寝てから帰って来るし、起きる前には神殿に行ってしまう。少しだけあたしを起こしてキスをしてくれて、直ぐに寝てしまう。

 こんな状態は男の人の身体にもフラストレーションがたまって良くないらしいのって、マルコが言ってた。


 あたしは、ヘンリーさんの家の庭にあった花や草木を出来るだけ、この家の庭に植え替えてもらえるように、キャスパー様にお願いしたんだ。

 キャスパー様は、二つ返事で許してくれた。


 それでマルコとも再会が出来たの。


「お尻を叩かれたんでしょう? 痛くなかった」


「あれは、俺が悪いんだよ。神聖な婚礼の儀式を邪魔してるおばさんをちょっと、脅かすだけのつもりがよ。お前もビックリさせたな」


 マルコは、八重歯の見える口元を大きく開けて笑って言った。


「でも、またあたしの所為で痛い思いをした人が出たわ」


「奥方の所為じゃないじゃん!!」


「でも……」


 あたしは、マルコがまだ少しお尻をかばって変な歩き方をしてるのが分かった。だからとても悲しい気持ちになったのだ。


 それを見ていたキャスパー様が鬼の形相で、あたしとマルコの方へ近付いてきた。


「?」


「「マリオン!!」」


 いつものは、こんな昼間に帰って来ることなんてないのに?


 どうしたのかしら? 怒ってるみたい…… 


「夫のいる身で、こんなに陽の高い内から密会とは頂けませんね」


「キャスパー様!! 誤解です!! マルコとは、デイジー家からの知り合いです。庭のお花の移し替えに来てくれていただけです!!」


「分かっています」


「だったら……」


「あなたに近付く人男は、執事のハリス以外認めません」


「そんな事を言ったら、あたしこれから先、キャスパー様だけしか話せません」


「そう言ってます」


「そんなの酷いです!! あたしだって、色々な人とお喋りしたいわ 」


 あたしがキャスパー様に走り寄って文句を言うと、彼はあたしの腕をしっかりと掴んで抱き寄せた。


「この家に居る小鳥がおしえてくれました。あなたに、ワタシの身体の心配事も知らしめようとしていると……。

 マリオン、ワタシは大丈夫です。これでも高位の神官ですよ。精神的な修行もして来ているんです」


「でも!! マルコは!!」


「庭師の息子は、庭師の仕事に精を出してください。奥方には二度と近付かないように」


 キャスパー様は、マルコの方を向いて今までに見たことの無いような顔で言った。

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