第15話  ヘンリーさんの遺書

「故、ヘンリー・J・デイジー元ヴィスティン元老長の資産のすべてを妻のマリオン・デイジーが相続するものとする」


 あたしが、ヘンリーさんの家について三日後、デジー家の法定管理人を名乗る人が屋敷に来た。

 オールバックの黒髪に、チョビ髭を生やしていたちょっとダンディーなおじさん。


「ええーー!! 待ってください!! ヘンリーさんには本当に親族がいないの?」


「前の奥方は、30年前に。ただ一人のご子息のマッシュ様は、病弱な方で、21歳で亡くなられた。オルガナ奥方を亡くされた後、無我夢中で元老院のお仕事をされていたが、お寂しかろうと見合いをセッティングしても、ヘンリー様の名声や、デイジー家の資産目的の者ばかりだった……」


「それで? あたし?」


「身辺調査はしたのだが……まさか、こちらの者とお前の叔母がグルになっているとは……」


「マリオン・デイジー奥方。あなたにはデイジー家の所有するすべての資産を譲られます。故、ヘンリー氏の最期を看取ってくれたあなたへのヘンリー氏の感謝の気持ちです。これらを貰って、あなたはどうしたいですか?

 一夜にして、莫大な遺産相続人のになってしまった訳ですが……」


「あ、あのね……ここで働いている人たちはどうなるの?」


「このお屋敷は、売りに出されることが決まっております。その買い手のアルテアの商人に仕えることになるでしょう」


 法定管理人のニール・キリエさんが言った。


「だったら、ご苦労様の意味も込めてみんなにまとまったお金と、お休みを上げて下さい。皆、ずっと働き通しでしょう?」


「何人の使用人がいると思っているのです? あなたの取り分が減りますよ?」


「そんなこと構わない。皆にはお世話になったもん」


 ニールさんは黙って頷いてくれた。

 ハリスさんは、目頭を押さえていた。


「久し振りに、明るい皆の顔が見ることができるな」


ハリスさんは、喜んであたしに「ありがとう、ありがとう」と何度も礼を言ってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る