第15話 マリオンが外出中の出来事
あたしは、叔母さんにしつこく何処の誰に腕輪を売ってしまったのかを尋ねた。ヘンリー―さんの形見だもの。返して欲しかったの。
「市街地の『ピスクル宝石屋』だよ。さすがにデイジー家だ。言い値で引き取ってくれたよ」
「ひどいわ!! 叔母さん」
あたしは、叔母さんの家を飛び出して市街地へと向かった。ここは裏通りだけど、ディナーレの中心街まではそう遠くない。
表通りに出て、中央神殿の方に向かえば、大きな商店街が並んでたはず……
中央神殿は、銀の森の光の神殿、西域のサントスの大神殿、に次ぐ第三の神殿で、大陸の内陸を管理している神殿だ。
ヴィスティン王国が、解体された時に新しく建てられたのだ。
『ピスクル宝石店』『ピスクル宝石店』……とあたしは、探し回った。
やがて、日が傾きかけた頃、通りに二頭立ての馬車が停まっている宝石店を見つけたのだ
『ピスクル宝石店』だった。
あたしが、店に入ろうとすると、中から背筋の真っすぐな老人が、出てくるところだった。老人なのに姿勢が良いなんて、こんな人昨日までいたデイジー家にいたハリスさんしかあり得ない。
「ハリスさん!!」
「奥方様!! 売られた腕輪は買い戻しましたぞ」
ハリスさんは、そう言って金のブレスレットをあたしの左腕にはめてくれた。
「良かった……ヘンリーさんの腕輪……戻って来てくれたわ。有難うハリスさん」
「こちらの追加調査で、その腕輪を売った叔母は、お前を利用して旦那様の遺産を乗っ取る計画もしているらしいな……」
「そんな……」
「14歳のおまえに言っても分からぬこと、あれから、旦那様の遺書が見つかった。いっしょに来なさい。遺書の開示の時には、奥方様にも立ち会ってもらう」
「でも……あたしなんて、わずかの間しかヘンリーさんといなかったわ」
「それでも、旦那様は孤独に逝かれたのではない。14歳の奥方様には荷の重すぎることを我々は頼んでしまった」
あたしは、急に悲しくなってきて涙が出てきた。
「お前は優しい子だ」
ハリスさんは、あたしの涙を拭って馬車に乗せてくれた。
その時だった。
裏町の方から物凄い爆発音と、黒煙が上がったのは……
あたしは、何も知らずにハリスさんと馬車に乗り込んで、ヘンリーさんのお屋敷に向かう途中だった。
ビックリして振り返るあたしに、ハリスさんが「フン」と小さく鼻を鳴らし、
「下町の貧乏人が、見たこともない何かを見つけたかな?」
含み笑いをしながら、そう言っていた。
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