第14話  デイジー家を追い出されたマリオン

 あたしは、デイジー家を追い出されることになった。ヘンリーさんからもらった大切な婚姻の腕輪をマルコの前で、叔母さんに奪われてるんだもの。

 当り前だわ……。

 あたしは、腕輪の無くなった左手首を摩り、「フゥ」と息をつく。


 ハリスさんは、カンカンに怒っていた。


「旦那様は、最期の時を看取ってもらう人を探していたのだ。身寄りのない者で、財産も託そうと思っていたのに!! 母方のおばが二人もいるだと!?」


 イオナ伯母さんのことは、この時は知らなかったの。


「いえ、レイチェル叔母さんだけで……」


「その姉がおる。なかなの信仰深い人物で、神殿に食料を持って来てくれる独身の女だ」


 初めて聞いたな~~ イオナ伯母さんのこと。レイチェル叔母さんは一言も言わなかったもの……。


「それでもだ!! お前に親戚がいた以上、旦那様の遺産を渡すことは出来なくなった!! お前には、当面暮らせるだけのお金を渡すから、早くこの家から去るのだ!!」


 別に、ヘンリーさんの遺産が欲しくてここにいる訳じゃないよ。


「もう少し、ヘンリーさんとの思い出に浸りたいわ」


「駄目だ!! お前の叔母はガメツイことが分かった!! 腕輪を盗んでいるし、そんな奴が身内にいるなぞ、こちらの気が休まらんわい!!」


 ハリスさんは、顔を真っ赤にして怒っている。


 あたしも、ヘンリーさんに貰った腕輪は返して欲しいと思っている。


 翌日あたしは、レイチェル叔母さんの家まで馬車で返品された。


 当面の生活費とデイジー家で作ったドレスやアクセサリーは持たせてくれた。

 でも、家の様子が違う。

 こんなに小綺麗な家だっけ?


「お帰り、マリオン良くやったわね。これで我が家もセレブの仲間入りよ」


「叔母さん? 何を言ってるの? この家と叔母さんの格好どうしたの?」


 叔母さんは、品の無い娼婦のような派手なドレスを着て、髪を結い、歳に似合わぬ化粧までしていたのだ。

 普段の叔母さんは、神秘さが売りなので、顔をヴェールで隠して化粧もほとんどしない。今の叔母さんと真逆なのだ。


「ふん!!もう路地裏で、じじいどもの話し相手をしなくても良いんだ。マリオン、お前は本当に不幸を呼ぶ子だねぇ……まぁ、私たちには、福を呼んだようだが……」


 叔母さんは、高らかに笑ってあたしがデイジー家から持って来た荷物を全て、自分の部屋へ運んでしまった。


「叔母さん、腕輪はどうしたの? あれは返して欲しいの」


「売ったに決まってるだろ」


 その言葉に、あたしは目の前が暗くなった。


 

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