第9話  エイシェルの花

 あたしは、専属メイドのソフイーに身支度を整え変えられて、絹の刺繍の入った王族が着るようなドレスを着せられ、髪も、ソフイーは、奥方らしく髪をアップに結おうとしたが、あたしには似合わなかったんだ。

 それで、ソフイーは諦めて、サイドだけ三つ編みにして後ろで留めてくれたの。

 そこに、ゼナの花の彫金の髪飾りをつけてくれた。


 窓がコンコンとなった。


 ちょうど身支度が終わったあたしは、そちらへ目を向けると、ここに来た日に声をかけてきた庭師の息子だというマルコだった。


「マルコだったよね?」


「とうとう、奥方になったのかぁ~ 可哀想になぁ~」


「? それ、どういうこと?」


 あたしが、マルコに話しかけようとしたらパタンと窓をソフイーに閉じられてしまった。


「ソフイー!? 何なの? マルコはここに来て初めて話してくれた人なのよ」


「奥方様は、もう、デイジー夫人なのです。卑しい使用人と口を利くのは慎んでください。奥方様が声をかけてもよろしいのは、旦那様だけです。他の者には、命令なさっって下さい」


 ソフイーは、メイドにしては凛々しく背筋を伸ばして言った。

 奥方の専属メイドになるくらいだもの。彼女も優秀ってことね。


 あたしは、窓を開けた時の外の香りが気になったの。

 今は、エイシェルの花が咲く時期だ。

 この屋敷に来たときに、もう花が開きかけていたから、もう、満開なんだ。

 花の香りがここまでする。


 あたしは、思い立ってヘンリー様の部屋に行こうとした。

 が、とたんにドレスの裾に躓いてしまった。


「奥方様!! 良家の奥方様は、そんなに慌てて行動するものではありません。まず、何をなさりたいのか、私におっしゃってください」


 また、怒られた~


「あのね、お庭のエイシェルの花が満開なの。ご主人様のヘンリー様とお庭の散策がしたいと思ったの」


 あたしは、ソフイーに身体を起こされながら言った。


「まあ!!」


 ソフイーは、驚いていた。

 でも、それはハリスさんに反対された。


「旦那様は、お身体が弱っておられる庭の散策などもってのほかだ」


「でも……たまには外に出た方が良いわ」


「駄目だ!! 旦那様に何かあったらどうするのだ!!」


「あの……」


 あたしとハリスさんが言い合ってると、後ろからマルコの声がした。


「なんだ?」


「いえ、奥さまに」


 マルコが、あたしの気持ちが分かったように、エイシェルの花を摘んできてくれたのだ。

 それもたくさん!!


「旦那様に差し上げてください。花弁は取りましたので、旦那様のお身体の負担にならないと思います」


 あたしは、マルコから花を受け取ると、大急ぎでヘンリー様の部屋に急いだわ。

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