第8話  デイジー夫人

 あたしは、生れて初めてこんなフカフカな寝床で寝たわ。

 養護施設では、たくさんの子供と大きなベッドで雑魚寝してたから、自分一人でこんなにたくさんの場所を占領できるなんて夢みたい。

 叔母さんのところでは、階段下の物置で寝起きしてたから、余計に身体は伸ばせなかったし。


 あたしは、興奮して明け方には目が覚めてしまった。

 嘘みたいだわ~~ こんなお屋敷で暮らして良いなんて。


 あたしは、ベッドサイドのテーブルにあるガス灯に灯りをともした。

 空は白くなりかかっていたれど、もう一度眠る気にはなれない。窓を開ければ、季節の花の匂いに交じって、食事を用意する匂いも交じって、風が教えてくれた。

 あたしは、荷物からエプロンを出し、炊事場へとダッシュしたわ。


 きっと、手伝えることはあるはずだもの。


 でも、炊事場の使用人頭のカッティーナさんにものすごく怒られた。


「デイジー夫人ともある方が、炊事場に来るなどあってはならない事です。私どもは、この家に仕える者として、仕事をしているのです。子供の遊びではありませんよ」


「でも、芋の皮をむいたり、やることはいろいろあるでしょう? あたしは得意なの」


 カッティーナは、一瞬ピクンとしたようだった。


「奥方様、何処でを覚えましたか?」


「神殿の養護施設よ。結構な子供の人数がいたの」


「さようでしたか、ハリス様を起こしてまいります。お部屋にお戻りになってお待ちください」


 あたしは、早々に炊事場から追い出されてしまった。


 部屋に戻ってすぐ、執事のハリスさんが来た。

 メイドを連れて。


「奥様、あなた付きのメイドになります。ソフィーです。明日から、目が覚めしたら、ベルを鳴らし彼女をお呼びください。ソフィーが奥様のお支度をお手伝いします。のこのこと炊事場などに行かれませぬように」


「でも!! お手伝いすることがあるんじゃないかって……この家には沢山の人がいるんだし……」


「いいえ、この家には、ヘンリー様と奥方様しかいらっしゃいません。他の者は使用人です」


 ハリスさんは、真面目な顔をしてあたしに言った。

 お金持ちって変わってるのね……

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