第10話  ヘンリーさんと庭を散策

 あたしは、マルコから受け取ったエイシェルの花束を持って、ヘンリー様の部屋へ急いだ。


 後ろからいっしょにやって来たソフイーに、ヘンリー様の部屋の扉を開けてもらった。


「ご主人様~!! お庭のエイシェルの花が満開ですよ~ 良い匂いでしょう」


「マリオン……あまぇはもう、ワシのづまなのじゃぞ~ ご主人様とはなんじゃ」


 怒られてしまった。

 だって、ずっと年上の旦那様のことを呼び捨てにしたりできないじゃない?


 それを言うと、「では、せめて『さん付け』で許してやる」で、妥協されてしまった。


 それからは、ヘンリーさんと呼ぶようになった。


「ヘンリーさん、窓を開けますね」


 あたしは、ヘンリーさんの部屋の窓という窓を開けた。

 ベッドに横たわったまま、少し眩しそうにするヘンリーさん。

 たしか、目は見えてないって言ってなかったかな? 光は感じるのかも……

 あたしは、それがとても嬉しくなった。


「ねぇ、ヘンリーさん。少しだけお庭に出てみません? 今日は、とても暖かで気持ちの良い日よ」


「そうか……お前が言うなら、行こうかのぉ」 


「旦那様!! お止めください!! もしものことがあったら……」


 ヘンリーさんは、お年だとは思えないくらいの眼力でハリスさんを見た。


「これ以上、どうもならんワイ!!」


「はい……旦那様。今お支度をいたしますので。ソフイー、マルコを呼んでくるのだ」


 マルコ?? 何でだろう? 

 その間に、ハリスさんがヘンリーさんの身支度を整えていた。寝巻きの上に厚手のガウンを着せて、足にも厚手の靴下をはかせていた。

 そうしてゆっくりと、ヘンリーさんの身体を起こしてマルコの到着を待った。


 程なくしてマルコが来て、彼がヘンリーさんを背負うことになったのだ。


「これは、初めての仕事だな」


 マルコは、ぼそりとあたしに言っていった。

 そうなのね。


「そっと、だぞ。マルコ」


 ハリスさんが、ずっと心配してる。頷くマルコ。


「では、行こうかのぉ。マリオン」


「はい」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る