第4話  回想

 あたしは、キャスパー様の腕の中で、明日から花売りをしなくて良いと、叔母さんに言われた時のことを思い出していた。

 本当に急だったのだ。「明日もお願いするよ」、花屋のルータスさんにも言われたのに。叔母さんは、「明日は、私と一緒に出掛けるよ」と言った。


 あたしは、正直嬉しかった。叔母さんと出掛けるのは初めてだったから。叔母さんの家には、酒浸りで働かない叔父さんと叔母さんは、インチキ占い師で人から金を取っていた。従弟のケインは、完全にあたしのことを見下して、上から目線で命令してくる嫌な奴だった。


 そんな家に引き取られても、自分の居場所がある訳がない。

 ただ、ただ、働き手が欲しかっただけで、あたしは叔母さんに引き取られたのだ。


 当然、花売りで稼いだ金は搾取された。

 本来なら13歳は、未成年ですもの。この時代は、子供の就業年齢も15歳からだったのよ。

 あたしは、本当に何も知らない子だった。


 翌日、叔母さんがあたしと連れ立って、ディナーレの町の中心街を訪れた。

 床屋であたしの髪を切り揃えてくれて、なんと、なんと、新品のワンピースまで新調してくれたのだ。


「これを着て、明日、ヘンリー・デイジーさんのところまで伺うんだよ」


「ヘンリー・デイジーさん……?」


「もとヴィスティン共和国の初代の元老院長さね」


 あたしの問いに、叔母さんはそれだけ説明してくれた。


「明日の朝、八の刻に迎えの馬車が来る。そうしたら、それに乗ってお行き。帰ってきたらいけないよ」


 叔母さんは、冷たく言い放った。

 あたしは泣きたくなってきた。

 叔母さんには、あたしを男の人に売ろうとした前科がある……。あの時は良識のある人があたしのことを15歳未満(そういうことは18歳以下は駄目だと神殿が推奨している)だと見抜いてくれたから助かったけど……


 今度は、ヘンリー・デイジーさんの所で何をすればいいのだろうか……

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