第3話  レイチェル叔母さんの一家

「養護施設には、15歳まで入れる筈ですよ?」


 キャスパー様は、あたしに疑問をぶつけてきた。

 そうなのだ。15歳までは子供として扱われて神殿の庇護下にいることが出来た。でも15歳を過ぎると、神殿が保証人を探してくれて、社会に出て働かねばならない。親のいない魔法の才能もない子供は、神職になるか、社会に出るしかないのだ。


 でもあたしの場合、13歳の時に母方の叔母が名乗り出てきた。


「あなたに、莫大な持参金を持たせた人ではないですね?」


「それは、お母さんのお姉さんのイオナ伯母さん。イオナ伯母さんは、とても信心深い人だから……」


 キャスパー様は、あたしから視線を外すと大きな溜息をついている。

 変な事言ったかしら?


「レイチェル叔母さんのところには、酔っぱらいのキール叔父さんと従弟のケインがいたわ。叔母さんは、あたしを引き取った後、15歳と年齢を誤魔化して客を取らせようとしたの。でも、良心的な人だったから、あたしのことを抱かなくて、叔母さんに厳重注意して帰っていったわ。今度こんなことをしたら、神殿の警備騎士に訴えるって言い残して」


「危ないことがあったのですね……ワタシの可愛い人」


 キャスパー様は、あたしを抱きしめてくれた。神殿の中に漂う香の匂いが鼻をくすぐる。


「でも大丈夫です。懲りた叔母さんは、知り合いにあたしを預けて、それからは花売りをしていました。花をいっぱい入れた引き車は重かったけど、綺麗なお花に囲まれて嬉しかったわ」


 あたしは本心を言う。

 キャスパー様はそれを聞いて、あたしの両方の手の平を見た。手の豆の後はもうない。一年前に花屋の方は止めているのだ。


「神よ、感謝します。ワタシの可愛い人に醜い手の痕など耐えらない」


「キャスパー様……」


 大神官様は、あたしの両手の平を口づけた。


「叔母上たちは、あなたを労働力として使うために、引き取ったのですね……」


 独り言のように言ったが、間違ってはいない。

 実際『花売りのマリオン』は一年で廃業になったのだ。


 そして……そして……

 最初のセカンドライフが、あんな人だとは、まだこの時のあたしは知る由もなかった。

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