探偵、こと足らず
Ruto
第1話
俺は
「いつまでくだらない言葉遊びをしているのかしら?」
こ、こいつ脳内に直接!?
一度は言ってみたかった台詞だ。実際今、脳内に女性の声が聞こえた。しかし実際に聞くと酷いものだな。酔ったような気持ちがする。.mp3であるべき存在を.txtで認識しているからだろうか?
「絶妙に分かりにくい説明をどうも。あなた意外と落ち着いているのね。これが夢では無
いことが分かっているのに」
やはり夢では無いのか……。一応夢である期待はしていたのだが、どうやら違うらしいので、ここで何なのかを冷静に考えなければならないようだ。
「そんなこと必要ないわよ。ここは死後の世界、あなたは今日死んだのよ」
あぁ、死んだのか、いい人生だったなぁなどと思えるほど俺は心が死んだ人間では無い。第一どうやって死んだのかも覚えていない。今朝、目が覚め……て……………
いや、どうやって死んだのかではない。どうやって生きたのかも覚えていない。名前は
「あなたの名前は金田一。年齢は16歳で今朝死にました。それは間違いないわよ。ま、とりあえず座んなさいや」
奥に見える椅子、それに座れということだろう。脳内に直接語りかけるような存在に歯向かうのは愚かだろう。姿の見えない存在に促されるまま椅子に座った。
「さて、ここは世界と世界の狭間、天界と言った方が近いかしら。あなたは今朝死にました。死んだ後に待っているのは、また次の生命、生まれ変わりよ。また同じ世界で生まれ変わり、輪廻転生を繰り返します。でも、それじゃあ16年生きたあなたが報われない。生きて死んでまた生きて、なんて面白くないでしょう? だからあなたにチャンスをあげるわ。あなたには今から『謎』を解いてもらう。その『謎』は他ならぬあなたの死に際についてよ。その『謎』が解けたのなら、あなたはボーナスステージ進出よ。輪廻転生の間に他の世界での幸せな一生が送れるようになるわ。どうする?やるかしら?」
うーむ。理解が追いつかないな。死んだことは納得しよう。死後の世界は極楽浄土と考えていたのだが、そう甘くはないらしい。いやそもそも16歳で死んだのだ。賽の河原で石積みだったのかもしれないと思うと輪廻転生の方がマシだが……。次の生命が人がどうかも分からないのなら、幸福な人生が確約された方に賭けたほうがいいのか?しかし『謎』を解く?俺の死に際?訳が分からないし、甘い話には裏があるのは天界だろうとどこの世界でも同じだろう。やはりここは………
「デメリットなんかないわよ。次の生命にすぐに移行するだけよ。だから、ボーナスステージなの。異世界転生よ?好きでしょ、そういうの。行けたらラッキーくらいでいいのよ。私も退屈してるのよ。でもタダでボーナスステージに行かせるわけにも行かないから、こうして暇つぶししてるの。それで、やるの?やらないの?」
ボーナスステージか………僕の一生がどんなのだったかはよく分からなくて、忘れたままでいるのは気持ちが悪い。区切りがつかない。人生を振り返りたい。
「俺は『謎』を解くよ。でも、もし外れても、俺の一生くらいはどんなのだったかは教えてくれないか。」
「ま、いいわよ。記憶に関しても、全部忘れたままじゃ『謎』なんか解けないと思うから、少しは今から返すわ。もし外れても全部返して上げるわよ。記憶が戻ったも意味なんかないしね。じゃあ、始めるわよ。」
こうして俺は自分、金田一の死に際を探る
「じゃあまず、記憶を返すわ。全部じゃないわよ、謎が解ける程度にね。パニクったりするんじゃないわよ。えいっ!」
あぁ、思い出した。実際には思い出したのではなく、失われた記憶を取り戻しただけなのだが、感覚はずっとつっかえていたものを思い出したときのものに近い。そうか、俺は高校生だった。県内で一番の進学校に進学した。性格もひねくれたものだったけど、人並みに友達はいた。うぅ……それより先が出てこない。でも俺は常に、何かを求めていた。
「じゃあ本格的に始めるわよ。あなたの死因は轢死、電車に轢かれました。朝の登校中にね。そこでおかしなことが起こってるの。覚えていないあなたにはちんぷんかんぷんだと思うから、駅のホームの防犯カメラから見た事故の映像を流すわ。そこで起こったおかしな事を見つけなさい」
轢死か、何とも痛そうな死に方だ。憂鬱になる。自分の死に際の映像なんて見たくないが、多分二度とないし、謎を解くために見ることにした。
至って普通の地下鉄だ。ホームドアとかは無いのか、だから轢かれたのだろうが。列の最初の方に並んでいるのが俺か。ホームは人が多いな。俺は本を読んでいるな、単語帳か?細部までよく見えないな。防犯カメラはこんなもんか。アナウンスが流れる。そろそろ電車が来るらしいな、それと同時に俺はあと少しで死ぬらしい。しっかりと見なければ……電車の音が近づいく。目を背けたくなってくる。心が恐怖を覚えているのかもしれない。そして次の瞬間、俺はホームから落ちた。そこで映像は終わった。俺は見てしまった。俺が落ちるまえに後ろから、変な物陰が俺を押したことに……………
「お疲れ様。その顔じゃ気づいたみたいね。あなたは落とされたのよ?誰にだと思う?記憶のないあなたじゃ何も分からないと思うから、選択肢にしてあげるわ。」
と言って、候補者を語り出す
「まず①:あなたの幼なじみ。小中高と同じであなたとは親友。最近じゃあなたとは疎遠になっていたらしいわね。久々に声を掛けようとして背中を押しちゃったり……?
次に②:あなたが振った女の子。最近仲良くなったみたいね。あなたの事を好いていたのだけれど、ひねたあなたは良くない振り方をしたわね。恨みはあるでしょうね。
③:昨日リストラされた会社員。そりゃもうひどい荒れようだったからむしゃくしゃしてたのかもね。さて、誰だと思う?」
………………。分からない。分かるはずもない。まず誰が誰かもてんで検討がつかない。そもそもリストラされた会社員ってなんだよ……
………違和感……。
なにかがおかしい気がする。今までの話に矛盾があるのか?何かひっかかる。
「さっきの映像、もう一度見せてくれ」
「いいわよ」
映像を見る。あぁやっぱりそうか。そうなのか、俺は………
「これは……自殺…だ……。いや半分自殺、半分事故だ。誰に落とされたとかじゃない。さっき、謎を解いて欲しいと言った。それは犯人探しじゃない。犯人探しはただの気まぐれだ。」
それが違和感の正体。女神的存在は謎を解けと言った、犯人を探せ、ではない。しかも、おかしなことがある、と言ったんだ。誰かに落とされて死ぬことをおかしなこととは言わないだろう。そして、もう1つ、俺が感じた違和感……、普通の人間は落とされたのなら、落ちまいと、死なないように、縋るように後ろを見ようとする。俺はそれをしなかった。むしろ自ら落ちようとするかのように落ちたのだ。なんてことだ。俺はそこまで人生に悲観していたのか……
「正解よ、ちなみにあなたが落ちたのは件のリストラ会社員がよろめいたのにぶつかった人にぶつかった、不運な事故ね、ご愁傷さま。じゃあ無事ボーナスステージ進出ね、おめでとう」
「まだだ」
「あぁ、記憶を返すとか言ったわね。いいわよ、ちょっと待ちなさ…」
「違う。まだ『謎』がある」
俺は気づいた。俺が生を諦めた理由を。
俺はホームから落とされた。それで終わりじゃなかった。俺は上がろうともしなかった。正確には上がろうとして、直ぐにやめた。映像を見て気づいた。俺は線路からホームを見た。多分、縋るように、本能が生きようとしたように生きる方法を探したのだろう。しかしそこに居たのは、極めて利己的で打算的な人という存在だった。皆、俺から目を逸らした。見たくないものを見ないように。自分は関係ないと思えるように。誰も助けようとしなかった。多分そこに、幼なじみや俺を好きだった人もいたのだろう。彼らも俺を無視したのだろう。その瞬間、俺は生に、人間に絶望した。
「そんなの知ったこっちゃないわ。でも面白いわ、あの映像であそこまで読み解くなんて。何年ぶりかしら、こんなに面白いのは。記憶を全部返すわ、そこで答え合わせでもしなさいや。ボーナスステージにも連れて行ってあげるわ、異世界に行ってもたまには見てあげるわ、あなたが何をするか気になるもの」
記憶が戻ってきた。俺の考えは当たっていた。そもそも人生に退屈していた。自分でもここまでひねくれた自分であることに辟易するが、人間の醜さを見てしまった今、あの結末は悪くなかったと思う。次の人生はもっと素直で実直な人間になりたいものだ。
目の前が真っ白になる。転生が始まる。少しワクワクしながら俺は行く末を待った。
(続く……かも?)
探偵、こと足らず Ruto @neetRuto
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